2024年問題で“積算事務所”勤務の約7割が収入減、解決の糸口は?CORDERが独自分析【寄稿】:2024年問題(2/2 ページ)
CORDERは2023年7月、建設業の見積業務「積算」に従事する方を対象に、2024年に建設業にも適用される働き方改革関連法に伴う、積算従事者の残業制限の実施状況とその影響を独自に調査した。今回の寄稿では、400人から得た回答をもとに、積算事務所の抱える問題点と、その解決策を分析している。
積算事務所勤務の約6割に副業意向があるが、副業のチャンスがない
積算従事者の現在の副業実施状況と今後の副業意向についての設問では、「現在、副業をしていないが、今後副業をしたいと思っている」と答えた方の割合は、積算従事者全体の平均が39.0%だったのに対して、積算事務所勤務の方は58.3%でした。副業の意向を持つ方の割合も、積算事務所が相対的に高くなっています。その他の勤務先種別では、総合建設会社(ゼネコン)が38.4%、地方建設会社(地方ゼネコン)が35.0%、設計事務所が23.5%、専門工事会社が31.6%、ハウスメーカー・工務店が51.4%でした(n=269)。
積算は豊富な実務経験が必要で、極めて専門的なスキルです。そういった積算スキルを生かして副業をしようと考える際に、いわゆるクラウドソーシングサービスが思い浮かびますが、一般的なクラウドソーシングサービスでは積算スキルを生かした副業の機会を得ることは現実的には困難です。理由としては大きく以下の3点が挙げられます。
- 積算は建物構造(SRC造、S造、木造など)や工事種別(躯体、内装、外装など)、案件種別(民間案件、公共案件など)などのマッチング要素が非常に複雑
- 躯体のみ、内装のみといった特定の工事種別のみの副業案件がない。そのため、対応できない工事種別がある場合に案件獲得が困難
- 全ての工事種別に対応できるスキルがある場合でも、建物一式は作業量が膨大で稼働時間が副業の範疇(はんちゅう)に収まらない
収入を上げるために、より条件の良い企業へ転職するという選択肢もあるかもしれません。しかし、積算に従事されている方に話を聞くと、「50代になって他の会社に転職というのもなかなか難しい」といった声が挙がり、転職という選択肢も現実的には取りにくい状況です。
積算従事者の年齢構成を見てみると、40代半ば〜50代あたりがボリュームゾーンになっており、平均年齢は47歳。40代後半〜50代にさしかかると転職も難しく、副業での案件獲得も困難で、積算スキルを生かして収入を上げるチャンス自体がそもそも少ないのです。
解決の糸口は、積算従事者への新たなキャリア機会の提供
今回の調査結果を子細に分析すると、積算従事者、特に積算を専門に行う積算事務所勤務の方が収入減少、相対的な低収入に直面している実態が分かりました。さらに、これまでは積算従事者の方がスキルを生かせる副業の場がなかったり、年齢的な理由も相まってキャリアアップの選択肢も少ない状況でした。建設業の川上の業務である積算に従事する方の労働条件が改善しなければ、積算がさらなる人手不足につながり、建設業全体のボトルネックとなってしまいます。
現実的な解決策として、積算スキルを生かした副業や積算スキルで独立する新たなキャリア機会の提供が考えられます。例えば、一つの物件を「躯体」「内部仕上」「外部仕上」「外構」「建具」のように積算する工種を分割し、複数人を一物件に対してマッチングさせる仕組みです。こういった仕組みにより、個人の努力では獲得が困難だった積算の副業案件を獲得し、さらにそれぞれが持つ積算スキルのレベルや範囲に合致した案件に対応できるようにもなります。結果的に、積算従事者の収入アップにつながり、案件数に応じて独立などキャリアップも目指せます。
2024年の労働基準法改正による時間外労働の上限規制適用後も、こういった積算に特化した副業サービスなど新たなキャリアの機会を活用することで、積算従事者の収入減少の課題を現実的に解決できるといえるのです。
「積算従事者の残業制限の実施状況とその影響に関する調査」概要
調査時期:2023年7月7〜11日
調査対象:全国20〜69歳男女の建設業従事者のうち、現在主に担当している業務が「積算」の方
サンプルサイズ:400人
調査手法:インターネットアンケート調査
※集計時に20〜69歳男女の建設業就業者数(国勢調査)でウエイトバック調整済み
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