米設計事務所が試みるBIMで進化するモジュール建築、サプライチェーンまで包括する新たな建築生産システム:Archi Future 2022(2/3 ページ)
「Assembly OSM」は、米ニューヨークを拠点に斬新なコンピュテーショナルデザインの建築設計を行う設計事務所「SHoP Architects」の子会社。新しいテクノロジーを建設の手法に活用し、親会社のSHoP Architectsが持つテクノロジーや人材などを活用しながら、建設業界の慣例や手法から離れた新しい建築生産システムの構築に挑戦している。
垂直統合型DXではダメ、水平的分散型サプライチェーンで実現
Assembly OSMのシステムとアプローチは、2021年に経営破綻した建設テック企業の米Katerra(カテラ)のように垂直方向に統合するのではなく、水平的な分散型サプライチェーンでの展開を構想している。
プロセスを実行するテクノロジーの活用には、DASSAULT SYSTEMES(ダッソー・システムズ)の3DEXPERIENCE プラットフォームに含まれるCATIA、ENOVIA、DELMIAが役立っている。
メレディス氏は、水平的分散型サプライチェーンを構成するProduct、Process、Platformのそれぞれについて、より具体的に説明した。
[Product]
Assembly OSMがターゲットとする市場は、10〜32階建ての高層レジデンシャルホテルだが、この領域では従来のモジュラー建築があまり役立っていない。
そのため、物理的なアプローチとしては、建物を構成する要素をサブ製品に分解。例えば、シャシー鉄骨構造、キッチン、バスルームポッド、機械システムなど。「こうしたパーツを個別の製品ラインで扱い、それぞれのサプライヤーと連携する」(メレディス氏)。
こうした手法は建物構成にも適用することで、カスタマイズやレイアウトの自由度が高まる。フロア・レイアウトや居室数の違いといった要求にも対応できるようになる。
ここでは、CATIAが備えるパラメトリック機能を活用している。ユニットやシャシーなどの製品設計が完了した後で、寸法やレイアウトの変更が必要な場合は、CATIAのモデリングエンジンを使えば柔軟に応じられる。「製品カタログのスペックを維持しつつ、ユニットごとに設計の自由度を高く提供できる」。
[Process]
サブ製品に分解されたコンポーネントは、管理されたサプライチェーンによって製造し、配送され、組み立てられる。Assembly OSMでは、そのサプライチェーン全体を管理している。
トイレや配管といったコンポーネントを調達し、サブアセンブリで組み立てる。これをAssembly OSMでは“ティア2アセンブリ”と呼んでいる。機械システムも個別の製品ラインでユニット化し、その後、Assembly OSMの“ティア1”施設に配送し、大型のモジュールとして組み立てる。
重要なのは、ティア2以下のコンポーネントの製造は地理的に分散しても良い点だ。ディア1施設を建設現場の近くに置けば、建材供給の効率化につながる。複数のプロジェクトが同時に動いても、スピードアップになるだろう。
メレディス氏は、「私たちが提案しているのは、ディアベースのアセンブリ構造とアセンブリでのサブコンポーネントの処理」と話す。重機やCNCルーター機などに設備投資していないので施設の費用対効果は高く、「それほどイニシャル、ランニングともにコストはかからない」と利点を口にした。
建設の大きな問題は、ツールセットの断片化
[Platform]
Assembly OSMのプラットフォームは、一気通貫のポリシーでプロセス全体が連続性を持っており、エンジニアリング、製造、設計、詳細化といったステップで別々のツールを使用しない。
メレディス氏は、「建築工学と建設における大きな問題は、ツールセットの断片化。建築家の設計やゼネコンの施工など、それぞれの異なるプロセスでつながりが無い」との考えを示す。
多くのプロセスを管理できれば、単一のプラットフォームに統合できる。実現するために、Assembly OSMのプラットフォームは、CATIAやPLMのバックエンドでの接続機能を備えている。また、ERPや現場で使うシステムなどとの連携も可能だ。センサーをつなげばリアルタイム追跡を行ったり、プロセス全体からデータを取得して分析したりできるだろう。プラットフォームが無いと、情報はパートナーごとにサイロ化されてしまい利活用できない。情報が統合されたプラットフォームがあって、始めてデータに価値が生まれる。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.