BIM先進国の英国に学ぶ「ISO 19650」の真意と「建築安全法」の背景【BIM特別鼎談 Vol.1】:BIM先進国の英国に学ぶ(2/3 ページ)
英国は、日本での2023年度からの公共事業のBIM原則適用よりも先行して、2016年に全ての公共工事の調達でBIM Level 2(Full Collaboration:意匠/構造/設備でBIM共有)を義務化した。2018年には英国規格協会のBSIが「ISO 19650」を策定して以降、ここ数年は国内でも大和ハウス工業を皮切りに、ISOの認証取得に挑む企業が増えつつある。BIM本格化を前にして岐路に立つ日本の建設業界にとって、BIM先進国の英国に学ぶことは多いはずだ。
英国だけでなく、米国など世界中で広がるISO認証の取得
BUILT編集部 では、英国内でISO 19650の認証取得は、どれぐらい広がっているのでしょうか?
バトラー氏 公共工事で義務付けられていることもあり、公共事業を受注する企業はほとんどで、他にも幅広い業種が認証を取得しています。いまやISO 19650は、さまざまなプロジェクトタイプで採用されつつある規格なのです。リスクを減らし、予測可能性を高め、より良い結果を得ることを目的としているため、アセットオーナーや建設発注者にも支持されつつあります。
しかし、BIMの使用を義務付けているのは、英国では公共プロジェクトのみ。とはいえ、政府の取り組みは、地方自治体レベルまでカスケードダウン(連鎖)しており、最低価格だけでなく、能力、品質、安全性などに基づいた調達を奨励しています。これまでのように、入札で常に最低価格を競わせることは、品質を度外視してリスクが高いだけです。
英国に限らず、ISO 19650は世界中で採用されつつあります。北欧や中東の一部では、商業プロジェクトの100%にISO 19650が要求されており、ドイツまたはドイツ語圏のスイスやオーストリアなどでは、プロジェクトにISO認証の証明書を提出することを義務付けています。
米国では最近、国立の「建築科学研究所(National Institute of Building Science:NIBS)」が、英国行政機関のビジネス・エネルギー・産業戦略省とケンブリッジ大学の産学提携による「デジタル・ブリテン建設センター(Centre for Digital Built Britain:CDBB)」とMOUを締結し、米国のBIM規格をISO 19650に準じて改訂しています。CDBB自体は、2022年9月末に5年間の使命を終え、その後、「ナショナル・デジタルツイン・プログラム(National Digital Twin Program:NDTp)」のような新しいイニシアティブに姿を変えました。NDTpでは、世界50カ国で200を超えるチームが力を合わせています。ただ、大規模で複雑なプロジェクトとなるため、完遂までには時間がかかる見通しです。
伊藤氏 私の認識では、英国を中心とした欧州や一部のアジアといったBIM先進国では、ISO取得は積極的に進んでいると聞いていましたが、逆に米国では遅れているはずでした。しかし、今の話を聞くと、これから米国でも取得企業が増えていくのでしょうか?
バトラー氏 確かにこれまで米国は、諸外国と違う潮流にありましたが、真のグローバルな規格だとISOを再認識し、方向性が転換されつつあります。BIMそのものも、ペルーやブラジルの南米など、想定外にいろいろな国で導入され始めたことも要因の1つでしょう。
BUILT編集部 それは、面白い動きですね。反面、日本のISO 19650の取得企業は、どのくらいの件数になるのでしょうか?
伊藤氏 日本では、2021年に大和ハウス工業で私が在職中に日本初となる認証を取得しましたが、アジア圏ではとても遅い事例でした。以降、認証を取得した企業が増え、今では10社以上にもなっています。傾向としては、ゼネコンが多く、設計事務所が少ない状況です。また、トランスコスモスのように受託組織(協力企業)の認証取得も、現時点(2023年4月時点)で3件あります。
ISO 19650の認証取得企業は、今後、ゼネコンなどの元請受託組織だけでなく、受託組織(協力企業)などへも、すそ野を広げ、さらに増えてゆくでしょう。なぜなら、“BIMはツールではなくプロセスである”という理念が業界内に浸透つつあり、そのプロセス構築には、ISO 19650の認証を取得することが欠かせないためです。
しかし、英国のように、発注者側や行政側で認証に挑戦する企業がまだ登場していないことが残念です。ISO 19650は発注者にとってもメリットがあるので、今後はそういった上流にも波及していくことを期待しています。
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