道路トンネルリニューアル工事でセントルの長距離/高速移動システムを西松建設が実証:山岳トンネル工事
西松建設は、道路トンネルのリニューアル工事で、通行止めせずに、コンクリート打設するためのセントルの安全高速運搬を可能にする「多軸台車を用いた全断面スライドフォーム移動システム」を実用化した。
西松建設は2023年3月14日、道路供用下での山岳トンネルの覆工リニューアル工事(場所打ちコンクリートによるアーチ部内巻補強工)を想定して、「多軸台車を用いた全断面スライドフォーム移動システム」を開発し、実大移動実験でセントルを短時間で安全かつ長距離の運搬が可能かを検証したと発表した。
供用下でのリニューアル工事に対応する多軸台車の安全高速運搬を実現
高速道路の構造物は老朽化が進んでおり、現状のまま進むと、2030年には開通から30年以上経過した道路が約8割になるとされている。こうした背景から、高速道路会社は、「高速道路リニューアルプロジェクト」として大規模更新工事を進めており、特に山岳トンネルは、供用下で覆工リニューアル工事を推し進める検討が始まっている。
山岳トンネルの覆工コンクリートは、セントルと呼ばれる内型枠を用いてコンクリートを打設して施工する。新設の山岳トンネル工事では、一般的には、トンネル坑口でセントルを組み立て坑内に搬入し、施工を行う。同様のセントルの組み立て/搬入作業を供用路線下で行うには、一時的にでも一般車両の通行を止めなくてはならない。
そこで西松建設は、供用下での覆工コンクリートのリニューアル工事に伴う通行止め期間の最小化を目的に、セントルを工事箇所から離れた位置で組み立て、トンネル坑内の施工箇所までの運搬は、多数の車輪軸を有する平型台車「多軸台車」の適用を検討した。実現のために、実大のセントルを使用して、運搬移動やトンネル坑内への搬入/設置の実験を実施し、移動速度や安全性について検証した。
実大実験では、セントルと多軸台車の連結には専用の運搬架台を設計し、仮設材にて構築。また、鋼製支保工による延長30メートルの模擬トンネルを施工(平面線形:R800メートル)し、トンネル内で実験した。
セントル搬入時の安全管理では、セントルとトンネルの壁面間距離管理を重点項目とし、壁面間距離の計測には、レーザー距離計で連続計測かつ計測結果をモニターでリアルタイム表示できるシステムを新たに構築。システムは、セントルのトンネル壁面への異常接近を示す管理値を設定し、計測値が管理値を超過した場合は、セントルに設置した回転灯を点灯させるなど「異常接近の見える化」を図ることで、より安全な運搬走行を実現させた。
実大実験の結果、セントルとトンネル間距離を連続監視しながら移動し、接触トラブルなどなく、定速でセントルを移動させることができた。今回の結果から、1夜間通行止め(7時間を想定)期間内でのセントルの移動可能距離は約1キロで、セントルを短時間で安全かつ長距離運搬が可能だと証明された(多軸台車によるセントル運搬およびトンネル坑内への搬入、坑内の施工箇所近傍に敷設されたレール上へのセントル設置、多軸台車搬出を含む)。
今後の展望としては、道路トンネルの老朽化が進んでいる現在、高速道路会社では、供用下での大規模更新(リニューアル)を行う検討も始まっている。
西松建設は対応のため、セントルを短時間で安全にかつ長距離を運搬できる移動システムの開発を進めるとともに、大規模更新に対応可能な技術開発を進める。
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