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“発注者”が意識すべきフロントローディング(前編)―設計段階で引き渡す「VHO」がなぜ必要か【日本列島BIM改革論:第5回】日本列島BIM改革論〜建設業界の「危機構造」脱却へのシナリオ〜(5)(3/3 ページ)

建設費や工期の削減には、フロントローディングが必須となる。しかし、フロントローディングはBIMソフトを単にツールとして使うだけでは、到底実現できない。では何が必要かと言えば、発注者が自ら情報要求事項をマネジメントし、設計変更を起こさない仕組みを作り、意思決定を早期に企図しなければならない。これこそがBIMによる建設生産プロセス全体の改革につながる。今回は、現状の課題を確認したうえで、情報要求事項とそのマネジメント、設計段階でのバーチャルハンドオーバー(VHO)によるデジタルツインによる設計・施工などを前後編で解説し、発注者を含めたプロジェクトメンバー全体でどのように実現してゆくかを示したい。

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 DfMA(Design for Manufacture and Assembly)を例にとると、現場ではなく工場で部材を製作し、現場でそれを組み立てるという考え方が軸になっているが、もし設備機器も含め、壁や床などの構成部材を工場で完成したユニットとして作っていたら、現場での変更は一切できない。そのため、発注者の要求事項による仕様決定や納まりの確認などは、工場の製作時には決定しておかなければならない。もし設計変更があれば、工場の部材を破棄して作り直さねばならず、膨大な費用と工期が生じてしまう。だからこそ、設計段階の関係者が一丸となり、フロントローディングのための作業にあたることが前提となる。

 もちろん、こういったプロセスが全ての建物に当てはまるわけではない。機能や性能重視の製造業的な建物ではなく、デザイン重視の芸術的な建築物は、こういったプロセスに向かない。作りながら考えて変更を繰り返すような芸術作品を建築物に発注者が要求するなら、設計段階のVHOに挑戦する必要はない。そのあたりも、発注者は明確にしておく必要がある。

 では、発注者の情報要求事項をどのように、早期に決め込めばよいのかを考察してみよう。

発注組織による情報要求事項のマネジメント

 建物を作る上でのステークスホルダー(意思決定権者)は、事業主とか地主とかの、初期段階から決まっている者だけではない。地主や事業主以外に、建物利用者や建物に入るテナント、竣工後の維持管理などを担当する業者などが想定される。彼らは、建物を使って何らかの業務を行うので、関係者となった段階で、ステークスホルダーとして要求を出す側になる。法的要求事項を出す立場も考慮すると、確認申請などの審査機関などもステークスホルダーの側に入るだろう。

 こうしたステークスホルダー全体を「発注組織」と呼ぶ。さらに、ステークスホルダーとなる発注組織による要求事項の整理と調整を、「情報要求事項のマネジメント」と称する。現状は、新たなステークスホルダーが出てきた段階で、設計事務所やゼネコンが意見を聞いて、設計変更などで対応していることがほとんど。

 しかしここで発注組織が、“情報要求事項をマネジメントする”という考えが必要となる。それは、ステークスホルダーのそれぞれの要求事項を、設計事務所やゼネコンではなく、発注組織が自らできるだけ前倒しに、整理と調整を行うことである。そうなれば、事業主や建物利用者に加え、発注するステークスホルダーとなるテナントや維持管理業者などもできるだけ早期に考慮して、情報要求事項をまとめておく方がよいということになる。

 後編では、発注組織がマネジメントする情報要求事項とはどのようなものか、ISO 19650-1を参考に、鳥取県のゼネコンとの共同研究なども交えながら論じたい。

後編へ続く

著者Profile

伊藤 久晴/Hisaharu Ito

BIMプロセスイノベーション 代表。前職の大和ハウス工業で、BIMの啓発・移行を進め、2021年2月にISO 19650の認証を取得した。2021年3月に同社を退職し、BIMプロセスイノベーションを設立。BIMによるプロセス改革を目指して、BIMについてのコンサル業務を行っている。また、2021年5月からBSIの認定講師として、ISO 19650の教育にも携わる。

近著に「Autodesk Revit公式トレーニングガイド」(2014/日経BP)、「Autodesk Revit公式トレーニングガイド第2版」(共著、2021/日経BP)。

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