地盤改良工事の必要/不要の判定方法と「地盤補償ビジネス」が変えた地盤調査の在り方:災害大国ニッポンを救う地盤調査技術(2)(3/3 ページ)
本連載では、だいち災害リスク研究所 所長の横山芳春氏が、地震や液状化などの予防策として注目されている地盤調査について解説します。第2回は、スクリューウェイト貫入試験で得られたデータがどのような調査報告書になるか、地盤改良工事の必要/不要の判定がどう判断されているかについて説明します。
地盤調査ビジネスの歴史、「地盤補償ビジネス」がなぜ生まれたか?
また、地盤調査ビジネスの歴史について振り返る。地盤調査は、連載第1回の記事で述べたように、2000年に事実上、義務化のタイミングがあった。
当初、地盤調査を担う会社は地盤改良工事を行う会社が主体だった。価格については、地盤改良工事は1つの宅地につき数十万円〜数百万円で、地盤調査は数万円程度だったことから、不同沈下のリスクヘッジを目的に地盤改良工事を実施する割合が比較的に多かった。
一方、地盤改良工事の必要/不要の判定では、前述したような「グレーゾーン」も存在し、確固たる基準で判断していなかった。2010年ごろ以降には、地盤の解析・補償を得意とする会社が本格的に参入し、他社の地盤調査結果と地盤改良の必要性の判断をセカンドオピニオンとし、地盤改良が不要な場合には「地盤補償」を付帯するビジネスが現れた。
地盤補償ビジネスでは、地盤調査会社のセカンドオピニオンによって地盤改良の判定が不要となったときに、数万円〜10万円程度の価格で地盤補償を付帯し、万が一、住宅に一定以上の不同沈下が発生した場合には、補修費用などについて補修するという性質のサービスを展開していた。
こういったサービスは、地盤改良工事で不同沈下リスクを回避するのではなく、リスクを移管するという考え方に基づき開発された。加えて、数十万円〜数百万円かかっていた地盤改良工事を不要とし、不同沈下が生じたら、数万円〜10万円程度の価格で地盤補償が付帯できることから、建築費用の「コストダウン」になると業界で関心を集め、2010年代前半に拡大した。
その後、上記のようなビジネスは広く住宅地盤調査業界にも広がり、2010年代半ばには地盤調査のセカンドオピニオンを行う地盤調査会社も多くなったため、全体として地盤改良工事を実施する割合は低下していった。
なお、住宅を建てる工務店などは、建物の設計やデザインは得意だが、見えない場所にある地盤調査が苦手な場合もある。そのため、地盤調査のみならず、結果の解析や地盤改良の必要/不要の判定などを地盤調査会社が手掛けることがあり、地盤の解析や補償に長けた会社と地盤の調査や改良工事を得意とする会社で、地盤改良工事の要否に関する判断が分かれる原因となっていた。
しかし、最近では、地盤補償ビジネスの普及により、建て主側から「地盤改良工事が不要でコストダウンして良かったが、本当に地盤改良をせずに問題ないか」という相談も増えてきている印象だ。さらに、地盤補償サービスは、一定の角度を超える沈下がないと修復の対象にならず、多くの地盤補償サービスは地震などの自然災害が免責事項であることなども注意しなければならない。
地盤改良工事は、単なるコストアップとして見られることもあるが、必要な場所で実施しないと不同沈下につながるだけでなく、行うことで地盤の液状化などへの対策となることもあり、専門家の意見なども踏まえ、地盤改良工事を行うことについて良く検討することが望ましい。
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