ドローンセキュリティガイドを公開した「セキュアドローン協議会」に聞く(後編)―建設ドローン産業の可能性を広げる“DaaS”:ドローンがもたらす建設業界の“ゲームチェンジ”(3/3 ページ)
ドローンは、歴史的には軍事の世界で飛躍的な発展を遂げてきた。それと同時にカウンタードローン/アンチドローンと呼ばれる敵対的なドローンを検出したり、通信をジャミングしたりなど、ドローンを阻害する技術も進化している。そのため、民間企業でもドローン運用時に、悪意あるリスクをどう防ぐかがこの先のフェーズでは問われてくる。
建設分野のDaaSが目指す先は、デジタルツインの構築
インタビューの終盤では、国内でのドローン活用の未来予測をしてもらった。その答えは、海外でのドローン運用法にヒントがあるという。
「日本では、物流や空飛ぶ自動車というモビリティの文脈でドローンが捉えられていることが多いが、海外、とりわけ北米でのドローンの運用実態は全然違う。建設分野では、工事進捗管理への活用がメイン。毎日、現場が終わった後にドローンが自動で飛び、現場の点群データを取得し、工事進捗の情報として本社などの統括部門に送信。その情報をもとに適切なタイミングで専門工を入れ、工事が遅れている工程やエリアに人を配置することが、もはや建設現場の日常風景となっている」(春原氏)。
さらに、海外の建設業界では、ここ数年で急上昇している注目キーワード「メタバース」と連動する動きも始まっている。「3次元CADや点群のデータをもとに、メタバース上に建築物や構造物を建て、経年劣化をシミュレーションすることで、保守/点検に生かすことも試みている。具体的には、現実の建築物をドローンで撮影し、そのデータをもとにシミュレーション(=仮想空間)で建物の劣化状態を予測し、さらにドローンで定期的に撮影したデータでシミュレーション結果との擦り合わせにも用いる。言うならば、ドローンのデータで、現実空間と仮想空間のデジタルツインを創造し、利活用するという新たなドローンの価値を生み出すことにもなっている」(春原氏)。
農業では、さらに進んでおり、「トウモロコシを2万株植える計画を立てたら、メタバース上にも植える。日照と水の量の情報をもとにシミュレーショトした後、ドローンを飛ばして現実空間と仮想空間を検証しながら収穫量などを予測して、その情報を食品加工会社やレストラン、スーパーなどのフードバリューチェーンで利活用している」とのこと。
デジタルツインのシミュレーションは、新たなビジネスも生み出す可能性があるという。「農業では、シミュレーションの結果を生かした農地の証券化が起きている。その土地から得られる20〜30年間の収穫量をシミュレートし、それをもとに農地の価格が算定して投資を募る農業と新たな金融サービスのFinTech(フィンテック)とが結び付いた仕組み。今後は、建設業界でも、メタバース上でのシミュレーションにより、数十年後のリスクを予測し、保険金額を決めるということがあり得るかもしれない」(春原氏)。
産業の発展という意味では、ドローンに何かを代替させる(人の代わりに物を運ばせる)ものとするよりも、DXの一部品として利用するツールと捉えたほうが、経済波及効果は高い。言い換えるなら、バリューチェーンのさまざまなレイヤーでデータを収集し、集まったデータをどう次の展開につなげるか。その基幹となるDaaSこそが、ドローンビジネスで商機を見い出せる真の価値となるだろう。
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