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木質構造物の高層化という挑戦 Vol.2 大林組の11階建て研修施設「Port Plus」木の未来と可能性 ―素材・構法の発展と文化―(9)(2/2 ページ)

本連載では、一級建築士事務所 鍋野友哉アトリエ/TMYAを主宰する一級建築士の鍋野友哉氏が、近年環境に優しいなどの理由で関心を集める木材にスポットライトを当て、国内と世界における木造建築の歴史や最新の木造建築事例、木材を用いた構法などを紹介する。第9回目となる今回は、大林組が神奈川県横浜市で社員研修施設として開発を進め、2022年3月に竣工した高層純木造建築物「Port Plus」について採り上げる。

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3層のLVL材をドリフトピンとGIRで接続

 これまでも述べてきました通り、木材を表しで使える「燃え代設計」の手法は、建築物がある程度燃えることを許容した準耐火構造で使用可能でしたが、オメガウッドでは、燃え代の下に、燃え止まり層となる耐火層を設けた石こうボードによる複合断面構造を採用し、表面が木の表しとなる耐火構造の柱を実現しています。

 大林組では、より高層の施設でのオメガウッド使用を視野に入れ、法的に必要な耐火時間の2時間を超えた3時間耐火の柱部材として、オメガウッドを使える認定を国土交通省より取得しています。なお、Port Plusでは、3時間耐火の柱部材として活用できるオメガウッドをエントランスなどの1階における一部の柱にも採り入れて、安全性を高めています。


エントランス部(3時間耐火構造の柱)

 Port Plusの構造は、LVLによって作られた十字型のラーメン接合ユニットによって成立しています。この仕口ユニットは、3層のLVL材をドリフトピンとGIR(接着材で接合ロッドを固定して接合する方式)によって綴り、工場で製造して組み立てることで施工精度を高めています。

 さらに、木造の場合は、RC造やS造に比べ、木材自体がめり込んだりする特性上、ラーメン構造とするのが比較的難しいですが、その分自重が軽いという特徴を生かして、Port Plusでは、ラーメン構造と壁式構造を適切に組み合わせて、全体の架構を成立させています。


「Port Plus」の十字仕口ユニット模型

 Port Plusは、構造部材以外にも、各所に集成材をはじめ、CLTやLVLなど、さまざまなエンジニアリングウッドを用いて仕上げています。例えば、吹き抜けに面した階段では、耐火構造を達成するため、ササラ(階段の段部を支える梁)を鉄骨として耐火性能を確保し、人が触れる部分の踏面にCLTを用いています。


CLTを踏面仕上げに用いた鉄骨階段

 Port Plus全体の木材使用量は1990立方メートルで、これは公共建築物で1年あたりに利用する木材量の約3分の1に相当します。ちなみに木材を全国から調達するのには、2年をかけたそうです。1990立方メートルの木材は、大林組の試算によると二酸化炭素を1600トン以上固定でき、S造の施設を建設するケースと比較すると二酸化炭素の削減量は1700トンに上るそうです。

 Port Plusの一部で3時間耐火構造の部材が採用されているように、柱、梁(はり)、床の全てで、3時間耐火の木質主要構造部材が開発されれば、耐火上の制約は無くなり、木造の超高層建築物が可能になります。

 ただし、超高層建築物を純木造で建築しようとした場合は、いままで見たことが無いサイズの柱や梁が必要になってくるでしょう。超大断面の部材では、防耐火性能と安全性の確認試験も必須になりますが、超高層の純木造建築物を実現させる上では、耐火性能はネックでは無く、構造と建築にかかるコストこそが重大な制約となるフェーズに現在さしかかって来ています。

 また、Port Plusの開発を皮切りに、日本国内の都市部でも木質化が進み、都市木造が発展していくことで、木質構造による建築物が増え、日本の林業も発展すれば、産地地消の未来像が想い描けそうです。これから高層都市木造建築物は、さらに存在感を高めていくと思われますので、ご期待ください。

著者Profile

鍋野 友哉/Tomoya Nabeno

建築家。一級建築士事務所 鍋野友哉アトリエ/TMYA主宰。東京大学 農学部 木質材料学研究室を卒業、同大学院修了。東京大学 客員研究員(2007〜2008)、法政大学 兼任講師(2012〜)、お茶の水女子大学 非常勤講師(2015〜)、自然公園等施設技術指針検討委員(2015〜2018)。これまでにグッドデザイン賞、土木学会デザイン賞、木材活用コンクール 優秀賞などを受賞。

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