金沢工大と鹿島、“カーボンネガティブ”も実現する建設向け3Dプリント技術の確立へ:3Dプリント
金沢工業大学と鹿島建設は、環境配慮型コンクリートをマテリアルにした建設用途での3Dプリンティング技術の研究に乗り出した。実現すれば、生産性向上のみならず、CO2排出量よりも吸収するCO2量が多い“カーボンネガティブ”も両立したこれまでにない3Dプリント技術となる。
金沢工業大学と鹿島建設は2022年5月23日、セメント系3Dプリンティングに関する共同研究を開始することに合意したことを公表した。今後は、金沢工大キャンパス内に設置した「KIT×KAJIMA 3D Printing Lab」を拠点に、両者の知見を生かしながら、3Dプリンティングによる環境配慮型コンクリートを適用した構造物の具現化に向けて研究を進めていく。
素材には、鹿島開発の環境配慮型コンクリート「CO2-SUICOM」を採用
建設分野では、主に海外で研究開発が進められ、セメント系3Dプリンティングにより住宅や歩道橋などが建設されており、国内でも、複数の企業が研究開発に着手している。セメント系3Dプリンティングは、ロボットアームの先端からセメント材料を吐出して積層しながら部材を製作するもので、3Dデータを直接3Dプリンタに読み込ませることで、図面作成から部材製作までの一連の作業をデジタルで完結できるため、型枠組立、コンクリートの流し込みといった人手が掛かる従来工法に比べて、省人化・省力化が図れる。このため、建設業界の喫緊の課題である技能労働者不足、生産性向上の解決策として、その効果が期待されている。
一方で、地球温暖化への対応が世界中で求められているなか、その一因とされるCO2排出量の削減は建設分野でも急務。特に主要資材のコンクリートは、主な構成材料のセメントの製造過程において大量のCO2を排出するため、各機関でCO2の削減や固定化が可能な環境配慮型コンクリートの開発が検討されている。
そのため、国土交通省が推奨しているi-Constructionでの作業の機械化や自動化に加えて、環境負荷低減という新たな側面からの技術開発が現在では求められている。
新技術のなかでも、3Dプリンティングに関する検討項目は、最適な材料の選定やロボット制御のほか、補強材の設置を含めた構造計算や解析によるシミュレーションなど、多岐にわたる。
そこで、土木・建築・機械だけでなく、電気・情報・景観計画といった広い分野で多くの知見を持つ金沢工大と、土木・建築の設計・施工やロボットなどを活用した施工の自動化に関するノウハウを持つ鹿島は、両者の知見や技術を融合させることで、環境にも配慮したセメント系3Dプリンティングに関する共同研究を行うこととなった。
3Dプリンティングに使用する材料は、鹿島らが開発した環境配慮型コンクリート「CO2-SUICOM(シーオーツースイコム)」を適用。CO2-SUICOMは、コンクリートの製造過程で、CO2と反応して硬化する特殊混和材と、火力発電所から排出される石炭灰を使用することで、大量のCO2を強制的に吸収・固定化させ、CO2排出量をゼロ以下にできる世界初の技術。1立方メートルのCO2-SUICOM製品を3Dプリンティングで造形した場合、マイナス18キロの脱炭素に貢献するという。
CO2-SUICOMはこれまでに、東京・中野の「Brillia ist 中野セントラルパーク」や広島・福山市の中国電力「福山太陽光発電所」などにも多数適用されている。
共同研究開始にあたり、2022年4月1日には、石川県白山市八束穂にある金沢工大の「やつかほリサーチキャンパス」内に「KIT×KAJIMA 3D Printing Lab」を設立。両者で独自開発したノズルを装着したスイスABB製のロボットアーム式3Dプリンタを設置し、試験製造を開始した。
今後の展開では、金沢工大と鹿島は、3Dプリンティングを建設分野に普及するためには、3Dプリンティングによる製作物を公共の場に設置し広く認知してもらう必要があると考えており、地方自治体とも連携した産官学での研究開発を進める。2023年度には、3Dプリンティングの製作物を北陸地方の公共の場に掲出することを目指す。
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