鋼製支保工を遠隔で建て込みする新装置を開発、建込み作業をオペレーター2人で実現:山岳トンネル工事
大林組は、山岳トンネル建設の生産性を向上させる統合システム「OTISM(Obayashi Tunnel Integrated System)」の開発に取り組んでいる。OTISMで、トンネル掘削の安全性上昇と省人化に関するシステム「OTISM/TUNNELING(オーティズム/トンネリング)」の構成技術として、鋼製支保工を遠隔で建て込みする「クイックテレクター」を開発した。クイックテレクターは、利用することで、従来は4〜5人で行っていた作業を2人まで省人化する。
大林組は、マルマテクニカ、カトウと共同で、山岳トンネル掘削作業のうち、鋼製支保工を遠隔で建て込みする「クイックテレクター」を開発したことを2022年4月7日に発表した。
掘削直後の不安定な地山や吹付け直後の場所への立ち入りを抑制
山岳トンネルの掘削作業は、穿孔(せんこう)や装薬、発破、ずり出し、吹付けコンクリート、支保工建込み、ロックボルト打設といった一連の業務で構成される。
こういった工程では、専用の機械と複数の作業員が狭あいな作業環境の中で共存するだけでなく、山岳トンネル特有の地山に接近した状況での仕事となる。重機との接触災害や崩落災害の危険性もあるため、切羽(きりは)から作業員を遠ざけ、機械のみで遠隔操作を行うことが求められていた。
そこで、大林組はクイックテレクターを開発した。クイックテレクターは、吹付け機のアーム先端に取り付ける4組のエレクター※1で鋼製支保工を所定の位置に円滑に移動させられる。支保工の天端(てんば)接合部には、ワンタッチで接合が可能な特殊ジョイントを備え、遠隔からの操作に対応する。
※1 エレクター:トンネルの天井や壁面を支える支保工を所定の位置に移動させ、据え付ける機械。ここでは4組のアタッチメントや支保工押さえ装置一式。
さらに、簡易マーカーを使用したガイダンスシステム※2を合わせて使用することで、建て込む位置がデジタルデータとして表示されるため、従来の人力作業に遜色ない精度で建て込みに応じる。クイックテレクターで取得したデータは、将来の作業効率や精度向上、遠隔操作の支援に活用する。
※2 ガイダンスシステム:支保工建込み作業を行うにあたり、設計上の建込み位置に支保工を誘導するためのシステム。オペレーターは、リアルタイムに監視モニター上で、設計と現実の位置座標の差を数値かつモデル化図面で確認。
具体的には、クイックテレクターは、これまで支保工建込み作業員が切羽の天端直下で、手や工具を使い、直接位置調整をしていた支保工建込み作業を、支保工上部と支保工下部(脚部)を専用エレクターで移動させ、特殊ジョイントで天端を接合することで遠隔で行える。
上記の利点により、機械と作業員が近接した作業がなくなり、機械との接触災害防止となる他、掘削直後の不安定な地山や吹付け直後の場所への立ち入りを抑えられ、湧水・亀裂や地山のゆるみによる予想外の崩落災害から作業員を守れる。
加えて、従来は、エレクターのオペレートに2人、支保工建込み作業員に2〜3人が必須だったが、クイックテレクターを使用することで、支保工建込み作業員が不要となり、オペレーター2人で作業が行えるようになる。
また、クイックテレクターとガイダンスシステムは、あらゆるエレクター付き吹付け機に適用し、計画時から検討しなければならないが、多様なエレクター付き吹付け機への後付けに応じるため、ベースマシンから開発する必要がなく、従来機への適用検討から開始できる。
今後、大林組は、クイックテレクターの実機を用いて、試験ヤードでの試験と現場での実証実験を重ねることで、多様な現場で使えるようにし、吹付け作業との連携も検証して、安全性向上と省人化を推進する。
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