木造と防耐火制限:特殊建築物を木造化するためのポイント:木の未来と可能性 ―素材・構法の発展と文化―(8)(2/2 ページ)
本連載では、一級建築士事務所 鍋野友哉アトリエ/TMYAを主宰する一級建築士の鍋野友哉氏が、近年環境に優しいなどの理由で関心を集める木材にスポットライトを当て、国内と世界における木造建築の歴史や最新の木造建築事例、木材を用いた構法などを紹介する。連載第8回となる今回は、特殊な木造建築物の防耐火制限について採り上げる。
特殊建築物を完全に木造で建てることも可能
前述の都市計画法に関しては、用途と規模の制限もありますが、耐火建築物以外に延焼防止建築物/準延焼防止建築物という類型が定められており、外壁に一定以上の耐火性能を担保し、延焼防止性能を確保することで、耐火建築物としなくても延焼防止建築物や準延焼防止建築物として認められます。
2021年3月に山口県防府市で完成した澤田建設の「CLT・KAZAGURUMAキャンパス」は、CLTを用いた建物で、小規模ながら防火地域内に75分準耐火性能を有する延焼防止建築物として設計を行い、内部の木造部を表しとしてしています。
他にも木を表しで使用して耐火性能を確保する方法には、外壁を耐火構造として設計することで内部を自由にできる通称「ロ準耐(ろじゅんたい)」があります。ロ準耐は、これまでも有効だった手法で、過去に存在した「耐火建築物では無いがある程度耐火性能を有する建物」として定められていた簡易耐火建築物というものが、1992年の法改正に伴い準耐火建築物の1つになったものです。
具体的には、外壁をRCなどの耐火構造とすることで、準耐火構造とし、木を表しにした空間を可能にします。一例を挙げると、マウントフジアーキテクツスタジオが設計した道の駅「ましこ(栃木県芳賀郡益子町)」では、1階の壁をコンクリート壁で構成し、小屋組に大断面集成材を利用した木質大スパン空間を実現しています。
また、国土交通省の告示に従った木造1時間耐火構造の外壁とすることで、ロ準耐1号(ロ準耐の建物1棟)を完全に木造で建てることも可能です。
吉川真理子+庵原義隆/YY architectsが設計を手掛け、東京都渋谷区で2016年に竣工した住宅「代々木の家」、福島加津也+冨永祥子建築設計事務所 / FT Architectsが設計した東京都世田谷区で2015年竣工の住宅「四つの柱」などが、さまざまな工夫を施すことで完全木造を達成したロ準耐の作品です。
ただし、ロ準耐の注意点は、外壁耐火部分と内部の構造部材における接合部分で、被覆材料であるプラスターボードが切れずに連続していることが必須となります。構造と被覆がどのように取り合うのかというディテールについても気を付けなければなりません。
加えて、地上4階以上の建築物では、最上階から4層までで1時間耐火性能を確保しなければならず、5層目から14層目までは2時間の耐火性能が求められます。解決策は、現在、1時間耐火性能までの木質構造は国土交通省により告示化されているため、上層部の4層を木造とし、その下層をRCなどの耐火構造とする手法があります。
スタジオ・クハラ・ヤギが設計し、2017年に東京都国分寺市で竣工した「国分寺ライフフレーバー本社ビル」などで、上記の手法が採用されています。
このように、木造でも耐火性能を有した建築物を建築することが可能になってきており、少なくとも新築では「木造だから燃える」という考え方は過去のものになっています。さらに、国土交通省の告示では1時間耐火性能の木質構造までしか示されていませんが、今後は2時間耐火性能の木質構造についても告示化されることが期待されています。
これが実現すれば、14階建てまでの木造は国土交通省の告示に準拠して設計が行えるようになり、ますます木造の可能性は広がって現実化される建築も増えてくると思われますので、これからの法整備の拡充とそれに伴う発展に期待したいです。
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