【第4回】人口減時代を乗り切る、地場ゼネコン2社の“サステナブル・モデル”事例報告:建設専門コンサルが説く「これからの市場で生き抜く術」(4)(3/3 ページ)
本連載では、経営コンサルタント業界のパイオニア・タナベ経営が開催している建設業向け研究会「建設ソリューション成長戦略研究会」を担う建設専門コンサルタントが、業界が抱える諸問題の突破口となる経営戦略や社内改革などについて、各回テーマを設定してリレー形式で解説していく。第4回は、地場ゼネコン2社の他には無い好対照の独自ビジネスモデルを例にとり、地方建設会社がいかにして持続可能性のある事業展開ができるのかを考察していく。
II-1.高収益を支えるバリューチェーン全般に渡る包括的アプローチ
須山建設の強みは、デザインビルド(設計・施工一括提案)を中核に据えた「ワンストップ建設ソリューションシステム」と「トヨタ生産方式を取り入れた生産性向上活動」であり、川上から川下までのバリューチェーン(価値連鎖)あるいはオペレーション全体に及ぶ包括的なアプローチが高収益を支えている。
独自のワンストップ建設ソリューションシステムとは、建設事業に関わる1.企画立案コンサルティング→2.設計→3.施工→4.アフターサービス→5.更新・改修→6.不動産土地活用といった6つの機能を同社及びグループ企業9社の総合力によって、高い次元でトータル提供するものである。
なかでも、意匠・設備・構造の専門スタッフが一体となって提供する「総合設計力」は同社の真骨頂とも言え、グループに抱える設備工事会社の存在と相まって、設計・施工一括受注の構成比率引き上げに大きく貢献しており、いわゆる地場ゼネコンの地域密着展開に欠かせない武器となっている。
システムの出発点であり扇の要ともいえる「企画立案コンサルティング機能」を磨く上では、早くから賃貸マンション事業に取り組んできたことが奏功している。近年は、サービス付き高齢者向け住宅やシニア向け賃貸マンションの企画・運営管理への事業拡張につながっている。
本田宗一郎氏の生誕地であり、豊田佐吉氏のルーツでもある「ものづくりの街」浜松の建設会社として、1979年から40年に渡り、製造業の発想を施工現場のみならず経営の活動全般に採り入れ、コストダウンや生産性向上を達成している。具体的には、トヨタ自動車で有名な「JIT(ジャイストインタイム)生産方式」「改善提案活動」「VE」「5S」などのトヨタ生産方式を修得する過程を通じ、「SPS(Suyama Production System)」というオリジナルのシステムを構築した。
ここ最近の改善提案制度の実績では、社員が提出した改善報告書は年間4500件以上に上り、コストダウン効果は2億数千万円以上となっている。また、地の利を生かし、機械メーカーなどとの施工現場の自動化や省力化設備(ロボット)の共同開発にも着手し、これまでに移送式足場用電動キャスターやコンクリート工事に使うコードレスバブレーターなどを実用化してきた。
こうした活動を通じて、2015年には「すやま創意くふう研究所」を設立し、これまで継続してきた業務改善活動をより充実させ、ものづくりに対する創意工夫の提案を実践している。
II-2.競争力の源泉「勤勉、誠実な社風」の形成に寄与する改善活動
競争力ある企業を説明する際に、コア・コンピタンスや特徴的な経営資源のみに基づいて言及することは分かりやすいため(一例で、日産自動車は「電気自動車」に強いなど)、筆者も無意識的にしてしまっているが、実は本質を捉えていない場合が多いことに気付く。
例えば「トヨタ自動車の真の強み、競争力の源泉は何か?」と問われると、決して一言で言い表せるものではないことからも分かるであろう。それは、多くの活動にまたがるテーマとして低コストや特定の顧客サービス、限定的な価値といったものは、その企業のあらゆる活動の網の目、いわば「有機的に統合された活動システム」に体現されたものであり、限られた特長のみから導き出されるものではないためである。
須山建設の経営層に話を伺うと、「当社は際立った特長がないですから」との回答をいただく。ワンストップ建設ソリューションシステムやトヨタ生産方式を取り入れた生産性向上活動といった川上から川下までのバリューチェーン、またはオペレーション全体に及ぶ包括的なアプローチは、全方位活動のため、突出したところがなく特長として語りにくい。加えて、有機的に統合された複雑なシステムなので一言では言い表せない。究極的には、競争力は「勤勉、誠実な社風(一朝一夕にはマネできない究極の経営資源)」に根差すのだが、外部には説明しづらい(面はゆい?)のだろう。こうしたことが、社外からは強みや競争力の本質が捉えにくい理由なのではないかと想像できる。
同社の社是の第一には、「誠実を旨とし、仕事に尽力すべし」が掲げられている。その後には、「一番の強みは、何よりも真面目で堅実な社風が顧客から信頼されていること。誠実に一生懸命、仕事を続けてきたことが地域の顧客から信頼されてきた証」と続く。こうした勤勉、誠実な社風づくりに、長年に渡る「トヨタ生産方式」の移植活動が寄与しているのでないかと筆者は強く感じる。
世界中のトヨタ自動車の研究者がトヨタ式の経営思想として論じるポイントは、「正しいプロセスで仕事をすれば結果は必ず伴う」という“プロセス重視の考え方”だと異口同音に口を揃(そろ)える。須山建設は、「トヨタ生産方式」に基づく継続的な改善活動に長年取り組むなかで、トヨタ自動車の経営思想に象徴される「プロセス重視」の勤勉かつ誠実な社風を作り上げ、それはグループを結び付ける経営思想にもなっている。
著者Profile
百井 岳男/Takeo Momoi
1993年タナベ経営入社。マーケティングを専門とし、「製品・市場戦略の構築」「中期経営計画の策定」、近年では「ブランディング戦略」などのコンサルティングに従事。生産財分野のマーケットリサーチのノウハウと戦略着眼は屈指で、自動車部品関連・産業機械・食品業界などの製造業を軸に多数の業種を担当。企業戦略の立案に携わる傍ら、次代を担う幹部人材、中堅若手社員の育成分野でも独自の手法を基に数多く関わってきた。直近の主な実績として、「中堅自動車部品メーカーの成長戦略構築支援」「地域No.1ビルダー(注文住宅)の次期役員候補人材育成プログラムの設計及び教育支援」「総合建設会社(地場ゼネコン)のブランディング戦略構築支援」などがある。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
- 建設専門コンサルが説く「これからの市場で生き抜く術」(3):【第3回】「背中を見ろ」では今の若手は育たない〜建設業界が理解すべき人材育成のキーサクセスファクター〜
本連載では、経営コンサルタント業界のパイオニア・タナベ経営が開催している建設業向け研究会「建設ソリューション成長戦略研究会」を担う建設専門コンサルタントが、業界が抱える諸問題の突破口となる経営戦略や社内改革などについて、各回テーマを設定してリレー形式で解説していく。第3回は、企業の持続的発展を支えるキーサクセスファクター(主要成功要因)と成り得る技術力を伝え、次の世代が吸収し、いち早く成長できる“仕組みづくり”の成功例を紹介する。 - 建設専門コンサルが説く「これからの市場で生き抜く術」(2):【第2回】建設業は“残業規制”にどう対処すべきか?工事監督の業務時間を1日1.5時間削減した事例から
本連載では、経営コンサルタント業界のパイオニア・タナベ経営が開催している建設業向け研究会「建設ソリューション成長戦略研究会」を担う建設専門コンサルタントが、業界が抱える諸問題の突破口となる経営戦略や社内改革などについて、各回テーマを設定してリレー形式で解説していく。第2回は、建設業にも差し迫る時間外労働の上限規制にどのように対応していくべきか、業務改善の事例を交えレクチャーする。 - 建設専門コンサルが説く「これからの市場で生き抜く術」(1):【新連載】縮小する建設市場で新規需要を獲得するためのCRM戦略、建設専門コンサルが提言
本連載では、経営コンサルタント業界のパイオニア・タナベ経営が開催している建設業向け研究会「建設ソリューション成長戦略研究会」を担う建設専門コンサルタントが、業界が抱える諸問題の突破口となる経営戦略や社内改革などについて、各回テーマを設定してリレー形式で解説していく。第1回は、ドメインコンサルティング 東京本部 部長 兼 建設ソリューション研究会リーダー 石丸隆太氏が、人口減少と建築物の老朽化に直面する建設市場で、CRM戦略を見直し、アカウントマネジメントを実施することで、売上拡大と収益性の改善を図る術を提案する。 - 産業動向:「建設業で若者就職者の減少は改善も、さらなる若者層の獲得が必要」年齢層別の採用状況
建設HRは、国内における建設業の人材市場動向をまとめた2021年12月分のマンスリーレポートを公表した。今月は、厚生労働省の「雇用動向調査」をもとに建設業における若者層と高齢者層の就職者について分析した。 - 産業動向:オリ・パラ後の建設業の見通しについて調査、大阪万博に注目する人は45.2%
JAGフィールドは、建設業界に従事する1021人を対象に、「オリンピック・パラリンピック後の建設業界の動向」についてリサーチした。その結果、「オリンピック・パラリンピック後に控えている事業で注目しているのは何か」と複数回答可能の条件で対象者に質問したところ、「2025年の大阪万博(および周辺地域のインフラ整備)」と回答した人は全体の45.2%で最も多かった。 - 産業動向:2021年度の住宅用断熱材市場は前年比増の1兆8242億円、改修需要と感染症対策が要因に
矢野経済研究所は、住宅設備機器メーカーや関連団体などを対象に、国内の住宅設備機器市場における動向について調べたレポートを公表した。調査結果によれば、2021年度における主要住宅設備機器の市場は前年度比3.4%増の1兆8242億円になると予測した。 - 産業動向:建設業に就職した新卒者の離職率を調査「高校新卒は3年以内の離職率が4割超」
建設HRは、国内における建設業の人材市場動向をまとめた2021年11月分のマンスリーレポートを公表した。今月は、厚生労働省の「新規学卒者の離職状況」の最新データから、建設業に就職した新卒者の離職率を独自に調査した。