閉鎖循環式陸上養殖の実証実験をスタート、奥村組:産業動向
奥村組は、閉鎖循環式陸上養殖事業の展開を目標に掲げ、茨城県つくば市で保有する技術研究所内で、陸上養殖技術に関する実証実験を行っている。今回の実証実験を経て、技術の課題をクリアし、陸上養殖システムを確立した後、陸上養殖魚の生産・販売を目指す。例えば、日本各地の遊休不動産などを活用し地域の名産品を創出するなど、地方創生のコンテンツとして利用するけでなく、都市部などの大消費地で安全・安心な陸上養殖魚を新鮮な状態で提供するといった幅広い利活用を検討している。
奥村組は、閉鎖循環式陸上養殖※1事業への参画を目指し、同社が茨城県つくば市で保有する技術研究所で、陸上養殖技術に関する実証実験を開始したことを2021年11月25日に発表した。
※1 閉鎖循環式陸上養殖:閉鎖循環式陸上養殖は、微生物の力を使ったろ過システムを用いて飼育水を繰り返し使用するため、海面養殖と比べ環境負荷が少ない養殖方式を採用している。加えて、水質・給餌などの要素を管理しながら生育するため、食におけるトレーサビリティーの観点からも安全性が高いとされている
水浄化技術は建設業にも応用展開する見通し
世界では、1人当たりの漁獲量消費量が増えている一方、気候変動や乱獲、プラスチックごみによる海洋汚染などで、水産資源の枯渇が懸念されている。さらに、国内の水産業では、漁村の過疎化や担い手不足が深刻化しており、漁獲量は減少している。
このような状況から養殖の重要性が高まっている。しかし、海面養殖では、対象の生物が食べ残した餌で海洋環境が悪化してしまうため、環境負荷の少ない養殖技術の確立が求められている。
そこで、奥村組は、環境負荷が少なく、場所が限定されない特徴を持つ閉鎖循環式陸上養殖に着目し、茨城県つくば市の技術研究所内に陸上養殖実験棟を建設して、陸上養殖技術に関する実証実験を開始した。
今回の施設には、20トンの飼育水槽2基と4トンの飼育水槽4基を設置している。20トンの水槽では、異なるろ過システムを比較検証できるようになっており、実験初弾としてトラフグの比較生育実験を行っている。4トンの水槽では、さまざまな魚種の養殖実験など、多目的に使えるようになっている。
各水槽には、水質・酸素濃度センサーや監視カメラで水槽の様子を常時監視・記録可能なシステムを導入するとともに、停電と水質異常が発生した際に即座に応じられるようなアラート機能も搭載している。
さらに、事業者やベンチャー企業、学術機関との研究・共創の場としても利活用する見込みで、事業化に向けた検証だけでなく、水産業に資する実証実験にも挑戦する予定だ。
また、閉鎖循環式陸上養殖で構築する「水浄化技術」は、建設業で行っている土壌汚染対策や工事排水・下水処理技術などへの応用が期待される他、実証実験では陸上養殖の事業化と並行して、建設業とのシナジーを意識した水浄化技術を確立することを目指す。
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