戸田建設が水素と酸素で構造物を切断する工法を開発、山留壁の切断撤去工事に適用:新工法
戸田建設は、日酸TANAKA、岡谷酸素とともに、コンクリート構造物の解体工法である「マスカット工法」に環境負荷低減要素を追加した「マスカットH工法」を開発した。マスカット工法は、可燃性ガスとして水素系混合ガスを使用するが、マスカットH工法は水素ガスのみとすることで、燃焼時は水のみが発生し二酸化炭素が生じない。さらに、マスカット工法の適用範囲は、RC造などの(他にCFT造、SRC造などの鋼材とコンクリートで構成される)構造物だったが、新工法は、ソイルセメント柱列壁(土とセメント系懸濁液を混合攪拌して地中に造成する壁体)の山留壁に対する解体・撤去工事へも適用できる。
戸田建設は、日酸TANAKA、岡谷酸素とともに、コンクリート構造物の解体工法である「マスカット工法」に環境負荷低減要素を追加した「マスカットH工法」を開発し、土木工事現場に適用したことを2021年12月8日に発表した。
SMW山留壁の切断撤去工事で生じる作業工程を半分以下に削減
近年の建設工事では、新たに構造物を開発する際に、既存構造物を除去する解体工事が求められるケースが増加している。しかし、RC造のような堅牢な躯体の解体工事では、作業に伴う周辺環境への工事振動が課題の1つとなっている。
さらに、地下部分では狭い空間での作業となる他、基礎の構造体断面が大きいにもかかわらず大型機械の採用が制限されることもある。
そこで、戸田建設は、ガス切断による解体工法のマスカット工法を開発し、地下のRC造構造物に対する解体作業の効率化や周辺環境に及ぼす影響の低減を図った。加えて、昨今必要とされている温室効果ガス排出量低減の課題に対応すべく、可燃性ガスを水素ガスのみとし、燃焼時に二酸化炭素を排出しないマスカットH工法を開発した。
マスカットH工法は、水素ガスと特殊な金属粉を混合し燃焼させることで、コンクリートを融解させて構造物を切断する技術。マスカットH工法を開発するに当たり、水素ガスのみを使用した場合に切断炎の目視確認がしづらく取り扱いが難しいというネックがあったが、適切なガス分量を検証し、特殊な金属粉を混合燃焼させることで切断炎の目視によるチェックを達成し、水素ガスによる切断作業を実現した。
戸田建設では既に、地下30メートルのトンネル立坑で行った仮設ソイルセメント柱列壁(SMW)山留壁の切断撤去工事にマスカットH工法を適用している。仮設SMW山留壁の撤去工事は通常、ブレーカーなどを取り付けた重機を用いてH形鋼周囲のソイルセメントをはつりする他、ハンドブレーカーを用いた手作業のはつりにより、H形鋼表面に付着したソイルセメントを完全に除去した上でH形鋼を切断する。しかしながら、ソイルセメント除去作業に手間と時間がかかり、工期が長くなっていた。
解決策として、今回の工事ではマスカットH工法を活用して、ソイルセメントとH形鋼を同時に切断し撤去することで、従来の方法と比べて作業工程を半分以下に短縮した。また、地下トンネルなどの閉鎖空間では、ガス切断により粉塵(ふんじん)が生じるため十分な換気が必須だが、専用の排気設備を併用することで安全な環境に仕上げた。
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