避難安全検証とBIMデータを連携し一元化する設計システムを開発、大林組:BIM
大林組は、避難安全検証法とBIMモデルを相互に連携し、データを一元的に利用する設計システム「SmartHAK」を開発し、受注した複数のプロジェクトに適用した。SmartHAKでは、指定確認検査機関での審査を経て、確認済証の交付を受けており、こういったシステムは業界初だという。
大林組は、建築設計で安全安心な施設を実現するための工学的な検証の1つとして、避難安全検証法とBIMモデルを相互に連携し、データを一元的に利用する設計システム「SmartHAK」を開発したことを2021年8月3日に発表した。
新しい判定法のルートB2にも対応
同社はこれまで、建物の火災安全性能に対して、性能規定※1である避難安全検証法を適用し、多種多様な設計技術を活用してきた。従来の検証方法では、設計図書の平面図や仕上表などから、検証に必要な情報を視覚的に判別し、手入力で避難安全検証用計算プログラムに情報をインプットし計算していた。しかし、BIMデータで作成した設計図(確認申請図書など)と避難安全検証図との整合性確認に手間がかかり、入力ミスが発生する恐れもあった。
※1 性能規定:建物全体で求められている安全上、防火上、衛生上重要である性能を確認する方法。寸法や形など、建物の部位ごとに細かく規定が設けられた仕様規定よりも柔軟な設計が可能となる
そこで、大林組はSmartHAKを開発した。SmartHAKは、避難安全検証法とBIMモデルをデータで連携して、一元化を図ったことで、スピーディーに確実に避難安全検証法を行える。
具体的には、避難安全検証の計算に必要な情報は、BIMデータから自動的にデータ収集して、避難安全検証プログラムとBIMデータの整合状況を可視化して効率的に照合する。そして、収集データを自動的に計算プログラムへ読み込むことで、不整合箇所を容易に発見して修正でき、設計図と計算書の整合性を高められる。さらに、避難安全検証の計算情報と整合したBIMデータをそのまま設計から施工、運用に使えるため、情報漏れや施工不備を未然に防げ、竣工後の改修時にもデータを使用可能。
大林組では、今回のシステムを活用し、建築確認申請で審査可能な設計法(ルートB1)から、性能評価検査機関を経て国土交通省の審査による大臣認定を受ける設計法(ルートC)まで幅広い手法で試行し、着工前および着工後の案件で実証している。加えて、2021年5月28日に告示公布された新しい判定法(ルートB2)にも対応することを実証した。
例えば、ルートB1の設計法では、避難安全検証に用いる市販ソフトを活用しており、ソフト開発ベンダー※2や検証作業者※3の協力を得て、データ連携に必要な機能を付加し、合理的な検証と審査の効率化を図った。また、BIMに格納されたデータのうち、部屋や建具の情報で避難安全検証に必要なものを自動的に抽出し、モデル情報として一覧を取りまとめる機能を開発。そして、避難安全検証ソフトからも計算情報として一覧を取りまとめ、双方のデータを自動的に照合するツールも開発した。
※2 ソフト開発ベンダー:イズミシステム設計が担当し、今回のシステムに必要なBIMデータから抽出する避難安全検証に求められる項目を一覧で表現し、避難安全検証計算書作成ソフトからのデータ出力機能を新規に開発した
※3 検証作業者:大林デザインパートナーズが担い、大林組のグループ会社で、2009年10月に設立。建築図面作成、CG製作、提案書の製作および印刷などを提供
一方、ルートB2とルートCの設計法では、BIMデータから抽出したモデル情報を、避難安全検証プログラムに直接読み込むことでデータの一元化を図り、整合性を向上させた。さらに、計画変更により前願の確認申請内容から変更された部分を明示するために、照合ツールを活用して前後データの不整合部分を色別することで視覚的なチェックを行え、整合確認作業の時間を短縮する。そのため、正確なデータが自動的に共有された避難安全検証に応じる。
今後、大林組では、今回の取り組みを通じて得た技術と知見を生かし、データ照合、データ一元化手法の開示と見読性が高い資料の作成および提示を行う。そして、指定確認検査機関と合理的かつ効果的な審査の連携を取りながら、性能評価や確認申請の正確性向上を図る設計システムの活用を推進する。
加えて、クライアントからの要望に対してデジタルを駆使した最適なサービスを提供していくとともに、設計作業の効率化を推進しながら、生産から維持管理までの一連のプロセスをSBS※4と連携し、生産性のアップおよび労務環境の改善を図る。
※4 SBS:Smart BIM Standardの略称で、大林組のBIM業務標準。BIM一貫利用を幹とし、プロジェクト関係者が等しく理解できるBIMモデルをつくるための基準
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