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【第11回】「設計BIM全社移行を実現する社内教育の秘訣」(BIM導入期編)BIMで建設業界に革命を!10兆円企業を目指す大和ハウス工業のメソッドに学ぶ(11)(1/3 ページ)

前回は、「BIM啓蒙期」での社内教育について説明した。BIM啓蒙期は、種々の工夫を凝らし、BIMにいかに興味を持ってもらい、少しでも社内でのBIM活用を促し、業務移行のための実施検証を行うべく奔走した過渡期だった。しかし、2017年からの“全社BIM移行”の決定を受けて、本格的な「BIM導入期」に移ることになる。「BIM導入期」では、まず設計のBIM移行を進めた。2次元CADの文化を捨て、BIMに完全移行するためには、担当者だけでなく、管理職や派遣社員・協力会社まで、縦横に徹底して教育することで、やっと設計の完全移行が見えてきた。今回は、この「BIM導入期」における社内教育がどのようなものであったかを紹介し、BIM移行というものは何か、その本質を追究していく。

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「BIM啓蒙期」と「BIM導入期」の社内教育の違い

 「BIM啓蒙期」は、BIMやRevitの操作にまず興味を持ってもらう取っ掛かりとなる研修を行い、できる範囲で実務活用を目指した。しかし、Revitでモデル・図面を作っても、管理職はモデルを見てくれないことや、他部門でのデータ連携も図面しか要求されないということが起こり、BIMモデルを作る真の意味が発揮されず、結果的にはなかなか普及が進まなかった。

 全社BIM移行を目的とした「BIM導入期」の教育と、BIMへの意識付け・検証を目的とした「BIM啓蒙期」の教育とでは、全く性質が違う。

 「BIM導入期」では、担当者だけでなく、管理職や派遣社員・協力会社まで、業務に関わる者は全員、その業務内容に応じて、BIM標準を教え込まねばならない。また、データ連携する次工程の見積や工場・工事などの次工程でもそのデータを連携・活用できる仕組みを作り、BIMデータの活用を図る必要がある。

 このように、BIMに移行するという判断は、全ての担当者の業務プロセス自体を変えることを指し、実務的なBIM標準化とともに、「人を変えるための教育」が最も重要な課題として立ちはだかった。


BIM移行期の研修風景(2019年頃)

「BIM導入期」の取り組みと実績

 大和ハウス工業が、2017年の下期からBIM移行を始め、2020年上期の段階で、どこまで移行が進んだのかを説明する。


BIM導入期のBIM実施件数比率の推移

 意匠設計では、2017年上期に実施設計の仕組みを作り、2017年の下期から実施設計でのBIMの活用を始めた。2018年下期の実績は13.5%に過ぎなかったが、2020年上期には78.9%に達し、2020年の下期には“全物件の実施設計”をRevitに移行しようとしている。

 これを可能にしたのが、2019年上期に策定した企画・基本設計の仕組みに基づく社内教育のスタートだと考えている。この仕組みによって、2019年下期には、基本設計のBIM実施率が、早急に41.4%に達し、2020年下期には80.9%にまで伸びている。

 基本設計の仕組みができる前は、実施設計のRevit活用は、企画・基本設計をAutoCADで作成して、実施設計を協力会社に依頼することが多かった。そのため、担当者は実際にはRevitを使わなくても、実施した報告を残せる状態であった。しかし、企画・基本設計は、基本的に担当者が作業することが原則のため、ここをBIM化することで、担当者の理解が深まり、実施設計での活用も進んだ。

 設計のBIM移行を先行させた上で、工事(施工)でのBIM移行を進めている。これは、設計BIM標準を固めて、実績を伸ばしたうえで、次工程となる工事は、設計のデータを連携・活用するという方針だからである。工事でも2年後の2022年には、全物件BIM移行を目指している。

BIM移行のために必要なものとは?

 当社が、どのような取り組みで、BIM移行を進めてきたかを解説する。まず必要となるのは、テンプレート・ファミリ・カスタマイズツールなど、Revitを使って、効率よく業務を行える仕組みである。ここをしっかり作りこんで、設計担当者自体が、業務に支障なくBIMに移行できることを納得していただく必要がある。

 次に必要なのは、社内のサポート体制である。当社では質疑応答のためのサポートデスクと、必要なファミリを作成できる体制を用意している。


Revitで業務を行うための仕組み(BIM標準)

 仕組みを作るだけではなく、これらを使えるように教育することが、肝要である。当社では、基本的に社内の各部門のチームで仕組み作りと教育を行う。これは、自ら作った仕組みは、自ら教えなければ伝わらないという考え方が根底にあるためだ。また、教育することで幅広い意見が聞け、仕組み作りの改善につながるといったメリットもある。

 教育については、単にトレーニングを行うだけでなく、どの程度理解できているのかを知る指標が必要となる。当社では、部門ごとに習熟度の目標を掲げ、全員のスキルを「見える化」している。教育は、そのスキルを上げるためのものと位置付けている。

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