電力線でネット環境を構築、規制緩和で名大学生寮や地下駐車場などにも導入が広がるパナソニックの「HD-PLC」:LANやWi-Fiよりも低コストで施工可(1/4 ページ)
HD-PLCは、電力線を使った通信技術で、既設の電気線に高周波化したデータを乗せて通信を行う。2021年6月30日には、HD-PLCの利用に関する電波法が改正されたことで、これまでは導入が難しいとされていた工場などの大型施設や地下駐車場へも、従来よりもコストを抑えた形でネット環境を整備することが可能になった。
パナソニック ライフソリューションズ社は2021年9月22日、有線通信技術の1つ「HD-PLC」に関する規制緩和と導入事例について解説するセミナーをオンラインで開催した。
インターネットの利用には、有線/無線によるLANや携帯電話のキャリアなどの通信が必須となるが、現場状況やコストなどの問題で利用できない場面が少なくない。しかし、HD-PLCは有効な打開策になり得るという。HD-PLCは、電力線に通信データを乗せる技術。既存の電力線をそのまま利用するので、新たなネットワーク回線を敷設することなく、ネットワーク機器を導入できる。
これまでは、規制によって利用できない環境があったHD-PLCだが、法改正に伴い対応範囲が広がり、通信速度もアップした。今回のセミナーでは、電波法の規制緩和によって可能になったHD-PLCの導入例を多数紹介した。
電波法改正で生産現場のネットワーク環境整備が容易に
HD-PLCの利用は複雑ではなく、用意するのは2台のHD-PLCアダプターだけ。HD-PLCアダプターの1台とLANケーブルでPCをつなぎ、別のHD-PLCアダプターにはネットワークカメラを接続し、それぞれのHD-PLCアダプターを電源コンセントにつなぐ。すると、カメラ映像がPCで見られるようになる。
もちろん、それぞれのHD-PLCアダプターは、離れた場所にあるコンセントに接続して構わない。通常であればLANケーブルやWi-Fiなどで受け渡しするデータが、HD-PLCアダプターによって電力線でやりとりされるようになる。
2021年6月の「電波法施行規則等の一部を改正する省令」の公布で、HD-PLCが利用できる範囲が広がった。今回の省令では、三相3線式(600ボルト以下)での利用と鋼船での運用が認められた。
とくに、三相3線での利用が可能になった意義は大きい。従来は、HD-PLCは単相交流(100ボルト・200ボルト)での利用に限られていた。しかし、改正によって、主に工場などで使われている電力線をそのままデータ通信に使えるようになった。
現在、工場などの現場では各種のIoTセンサーや監視カメラ、エッジサーバなどの重要性に注目が集まっている。しかし、必須となるネットワークの構築がネックとなり、導入が頓挫するケースもあった。今回のルール改正で、既設の電力線でデータ通信が可能になれば、生産現場でのデジタル環境の整備が大きく後押しされることになる。
信号を複数のアダプターで中継する「マルチホップ技術」
電波法の規制緩和のほかに、従来のHD-PLCに比べ、端末の機能が向上している点もHD-PLCの普及につながる。なかでも、「マルチホップ技術」の実装は重要だ。
マルチホップ技術は、HD-PLCのアダプターを使って信号をバケツリレーのように送る。従来に比べ、データを送受信できる距離が格段に伸びる。
従来型の第1世代、第2世代のHD-PLCアダプターでは、分電盤の箇所でデータの減衰が大きく、分電盤をまたいだ通信ができなかった。しかし、最新のHD-PLCアダプターであれば、分電盤のある場所にアダプターを設置することで、分電盤を超えた通信も可能となる。パナソニック ライフソリューションズ社が示した資料によると、10ホップで3.8キロの通信実績があるという。
今回、HD-PLCの説明を行ったパナソニック ライフソリューションズ社 エナジーシステム事業部パワー機器BU 市場開発部 寺裏浩一氏は、第3世代のHD-PLCアダプターを「広く産業用途で使えるように進化した」と話す。
既に稼働している工場や倉庫などにIoT機器を導入する場合は、工場や倉庫を止めることなく工事や調整などを行わなければならない。しかし、LANケーブルやWi-Fiなどを使う従来の方法では、工事やその準備の段階で、施設の稼働が制限される懸念があり、コストにも跳ね返ってしまう。
しかし、HD-PLCであれば、そうした心配は不要だ。IoT機器とHD-PLCアダプターを用意するだけで済み、スピーディーに導入作業ができる。また、LANケーブルの敷設も最小限なので、設置後に場所を移動する場合にも簡単に対応できることになる。
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