水耕栽培の培養液向けにプラズマ殺菌技術を確立、西松建設と東北大学:産業動向
西松建設は、東北大学との共同研究で、施設園芸や植物工場の水耕栽培で使用される培養液の衛生管理方法として、プラズマにより培養液中に存在する微生物(かび)の増殖を抑制する殺菌技術を開発した。今後は、今回の技術を生かして、植物工場の水耕栽培における安定生産と生産性向上に役立つ技術開発を推進する。
西松建設は、東北大学との共同研究で、施設園芸や植物工場の水耕栽培で使用される培養液の衛生管理方法として、プラズマにより培養液中に存在する微生物(かび)の増殖を抑制する技術を確立したことを2021年3月2日に発表した。
培養液中のかび数を100分の1以下まで抑制
施設園芸における栽培方式の1つである水耕栽培は、窒素やリン、カリウムといった植物の栄養成分を溶け込ませた水「培養液」に植物の根を浸して栽培するため、培養液中における微生物の発生と増殖が課題となっている。かびの中には、根に付着し腐敗させる種類もあり、場合によっては植物が枯死に至ることもある。
また、同一の培養液で多くの植物を栽培するケースでは、かびが増殖すると病害が多くの植物へ拡散し、安定した生産が困難になる。加えて、培養液中のかびは培養液に浸っている根だけでなく、飛散して葉に付着することで葉へ病害を発生させることも判明している。そのため、培養液中におけるかびの増殖を抑制することは、病害の予防で必要と考えられている。
しかし、培養液中に直接添加できる農薬は少なく、かびの殺菌に効果のある紫外線やオゾンなどを用いた技術もあるが、栄養成分の沈殿や強力な酸化効果による作物の生育不良といった問題がある。
以上のことから、栄養成分の沈殿や作物の生育に影響を与えずに培養液中のかびを殺菌する技術の確立が期待されていた。
そこで、西松建設と東北大学は、プラズマによる殺菌技術を開発した。今回の技術では、かびが増殖した培養液の中にプラズマを照射し、酸化力の高い活性種を発生させることで、水耕栽培で主に問題視されている根腐病のかびが増殖することを抑えられることを確かめた。具体的には、培養液中のかび数を100分の1以下まで抑制することを確認している。
プラズマ照射により培養液中に発生する活性種の1つである過酸化水素は、高濃度(1000マイクロメートル以上)で培養液中に存在すると植物の根に接触し、生育を抑える。培養液中におけるかびの増殖抑制効果が得られた条件では、過酸化水素の濃度が植物の生育抑制に影響が出る5分の1の200マイクロメートルとなり、植物生育への影響は少ないことが分かっている。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
- 太陽光発電所の敷地を希少な生物が生息でき農作物も育成しやすくする新サービス
サンリット・シードリングスは、森林などに建設される太陽光発電所の敷地を希少な生物の生息地へと転換させることや農作物の栽培に適した土壌に変えることができ、降雨時の土砂流出も抑えられる土づくりを実現するサービスを開発した。同社は、ETSグループホールディングスと共同で、新サービスを太陽光発電所設備の設計・施工・管理運営とセットにし、生態系リデザイン事業として事業化した。 - 吸気した空気を波長254nmの紫外線で清浄化する除菌装置、DNライティング
DNライティングは、波長254ナノメートルの紫外線で吸気した空気を清浄化する紫外線除菌装置「くりんクリン Stand」を開発した。くりんクリン Standは、1台で75立方メートルの空間をカバーする。 - 自動走行で室内のウイルスを99%除菌するロボ、コロナにも有効
デンマークのロボットメーカーUVD Robotsは、自律走行型のロボットと「UVC 光除菌ランプ」を組み合わせた自動殺菌ロボット「UVD Robots」を開発した。2019年秋には、国内販売代理店のカンタム・ウシカタがUVD Robotsを発売し、新型コロナウイルス感染症の拡大以降、大手ゼネコンからの引き合いも増えている。 - 野村不動産が殺菌装置や床放射空調システム搭載のオフィスビルを開業
野村不動産は、従業員10人未満の会社を対象としたオフィスビルブランド「H1O」の開発を進めている。2022年度までに、東京都心5区(渋谷区・新宿区・中央区・千代田区・港区)を中心とし、15拠点を開設する予定だ。 - “深紫外線(DUV)”の2時間照射で、99%殺菌するLED照明を大成建設が開発
大成建設は、ウイルスを殺菌する深紫外線を利用した空間殺菌灯と、室内に人がいないことを確認して深紫外線を照射する安全制御システムを開発した。今後は、学校や病院、BCP対策に取り組む企業のオフィスに向けて積極的に提案していく。 - 「ナノ銀粒子」で空間全体を除菌するコロナ対策、600m先まで届く高性能噴霧器
COSMOの「nano maizer」は、ナノ銀粒子で除菌・抗菌・消臭を実現する液剤「nano silver Pro」を噴霧する装置。不特定多数が集うイベント会場や商業施設に設置すると、空間全体を除菌することができる。 - 除菌に有効な室内空間向け噴霧器、NSFエンゲージメント
NSFエンゲージメントは、ベンチャー企業の空間除菌が開発した「クロラス酸水を用いた噴霧器」のビジネスモデル構築を進めるとともに、2021年1月の正式発売に向けて積極的な提案を行っている。