セントルを所定の位置に自動でセットする新システム、2人で作業でき所要時間は30分:山岳トンネル工事
大林組は、岐阜工業とともに、山岳トンネルの覆工コンクリート作業で、ボタン操作によりセントルを所定の位置に正確にセットする「セントルの全自動セットシステム」を開発した。
大林組は、岐阜工業とともに、山岳トンネルの覆工コンクリート作業で、ボタン操作によりセントルを所定の位置に正確にセットする「セントルの全自動セットシステム」を開発したことを2021年7月14日に発表した。
セントルの全自動セットシステムにより「OTISM/LINING」の開発が完了
山岳トンネルの覆工コンクリートは、トンネルの内側にセントルと呼ばれる移動式鋼製型枠をセットし、トンネルとの隙間にコンクリートを流し込み構築する。セントルは、約10メートル間隔で、コンクリートを打設しつつ、レール上をスライドさせて移動するが、所定の位置に正しくセットするためには、セントルの中心位置や高さを繰り返し測量し、位置と姿勢を細かく制御する必要がある。一回の作業は、6人で約90分かかることから、作業効率を上げることは、工事全体の生産性向上に貢献する。
上記のような状況を踏まえて、大林組は、セントルの全自動セットシステムを開発した。セントルの全自動セットシステムは、セントルに搭載された測量機械や傾斜計といったセンシング機器が、随時、「自己位置の把握」と「姿勢(覆工形状)の取得」を行い、セントルに搭載された駆動指令部に共有する。駆動指令部は、共有されたデータを元に、目標地点までの移動距離などを演算し、指示を発信することでセントルが自動で移動。
さらに、移動後に高さや位置を調整し固定するセントル上部の横送り装置やジャッキ、サイドフォームに設置されたジャッキの伸縮など、セントルのセット作業をボタン操作のみで自動化する。そのため、複数回の測量作業や手動によるジャッキの伸縮などが不要となり、従来と比較して3分の1となる2人で作業でき、所要時間も30分に減らせる。
また、セントルを自動かつミリ単位の精度でセット可能なため、人が繰り返し行うことによる人為的ミスを排除するだけでなく、より高い精度で設計仕様に沿った覆工コンクリートを構築する。加えて、センシング機器や駆動指令部は、後付けに応じているため、セントルのメーカーを問わず使える。
大林組は、セントルの全自動セットシステムを構築したことで、開発を進める山岳トンネル統合システム「OTISM(Obayashi Tunnel Integrated System)」のうち、トンネル覆工の品質向上と省力化に関するシステム「OTISM/LINING」の開発が完了した。同社では、OTISM/LININGを現場に適用することで、品質向上だけでなく、覆工作業全体を通じて6〜9人が求められる覆工作業の人員数を2〜3人に削減可能だと見込んでいる。
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