山岳トンネル工事の覆工コンクリート工を迅速化する「高速打設システム」、奥村組:トンネル工事
奥村組は山岳トンネル工事で、掘削後の覆工コンクリート工事の迅速化を可能にする「高速打設システム」を開発し、既に中日本高速道路の石合トンネル工事で実証実験を行った。検証結果では、ロングセントラル方式で打設スパンが伸びても、施工時間は同程度で完了させることができたという。
奥村組は2018年8月22日、テクノプロ、北陸鋼産と共同で、山岳トンネル工事における覆工コンクリートの急速施工を可能とする「高速打設システム」を開発したと公表した。
前後、左右、圧入方式併用の要素技術を取り入れ、打設時間を短縮
開発の背景には、山岳トンネル工事で施工を迅速化するには、長孔発破などで一掘進長を長くして掘削を急速化するだけではなく、その後に続く覆工コンクリート施工も遅れずに進捗させる必要がある。方法の一つとして、コンクリート打設の型枠となる「セントル」を通常よりも長尺にし、1回の打設スパン長を延伸する“ロングスパンセントル方式”がある。しかし、1回のコンクリート打設量が通常のセントルに比べ、大幅に増加するため、従来の打設サイクルを維持するためには、打設の高速化が重要な課題となっている。
新開発した覆工コンクリートの高速打設システムは、この問題を「前後の同時打設」「左右の同時打設」「圧入方式を併用する打設」の各要素技術を取り入れることで解決。ロングスパンセントル方式で打設スパンが通常の10.5m(メートル)から18m程度に伸びても、同程度もしくはさらに短い時間で打設を完了することが可能になる。
要素技術の一つ、前後の同時打設では、2台のコンクリートポンプ車を使用し、セントルの前後2系統から同時に打設することで、通常の1台使用に対しての時間当たりの打設能力が倍増。
左右の同時打設では、1系統の打設ルートをY字配管により、セントルの左右に分岐させ同時に打設する。配管内に設置した流量調整ピンの調節で、打設高さを左右均等にし、コンクリートの側圧差に起因するセントルの変形を防止する。
圧入方式の併用は、コンクリートをセントル内の打設口の高さに到達するまで流入した後も、配管を切り替えずにそのまま打設空間の上方へ圧入する方法。一つの打設口における打ち込み範囲を拡大して、配管の切り替え回数を削減することで、この作業に伴う打設中断の時間が短縮される。
高速打設システムの検証は、中日本高速道路が発注した山梨県南巨摩郡南部町福士の「中部横断自動車道・石合トンネル工事」(工期:2016年3月〜2018年12月)で行った。システムを通常の10.5mのセントルを用いたコンクリート打設に適用して、各要素技術の効果を確認したという。
施工時間の結果からみると、ロングスパンセントルを用いて打設スパンが18mに伸びても、通常の施工方法による10.5mと同程度の時間での打設完了を見込めることが実証された。
施工中は、前後・左右の同時打設や圧入方式を併用する打設によってセントルに過剰な圧力や変位が生じることがなく、セントル脱型後でも、コンクリート表面の出来栄えや圧縮強度、透気係数の測定結果から、通常の施工方法と変わらない品質を有していることも認められた。
奥村組では、ロングスパンセントルへの本システムの本格適用に向け、さらなるブラッシュアップを図るとともに、山岳トンネルの急速施工技術として積極的に提案していくとしている。
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