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【伊藤久晴氏の新連載】日本列島BIM改革論ー建設業界の「危機構造」を脱却せよ日本列島BIM改革論〜建設業界の「危機構造」脱却へのシナリオ〜(1)(2/2 ページ)

建設業界が抱える人材不足、技術伝承などの諸課題をICTによって解決しようという取り組みが国内でも広がりつつある。しかし、BIMをはじめICTツールの導入のみにスポットが当たることが多く、その先にあるICT活用の真価を発揮できているケースは少ないのではないだろうか。本連載では、長年にわたり、大和ハウス工業やRevitユーザー会(RUG)で、日本のBIM進化の一翼を担ってきた伊藤久晴氏(現BIMプロセスイノベーション代表)が、「日本列島BIM改革論」と銘打ち、BIMを起点とした成長過程にある“建設DX”や“デジタル・ウェルビーイング”という未来も見据え、建設業が足元の「危機構造」からいかに脱却すべきか、プロセス変革の秘策を提言していく。

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建設業界の「危機構造」からの脱却

 BIMによる情報マネジメントプロセス(ISO 19650)によって、設計・施工・維持管理の情報がデジタル化できる。デジタル化された情報をもとに、デジタル基盤が構築され、ロボットやAI・ICT建機などに結び付くべきだと考える。しかし、日本の建設業界は、従来のプロセスを維持し、それを変えることなく、新しい技術をツールとして導入することを目指しているようにみえる。しかし、プロセスを変えることは容易ではない。紙に鉛筆で図面を書いて建物を作ってきた時代に作られた設計・施工プロセスを大事に守り、品質と性能の高い建物を作ってきた日本の伝統ともいえるプロセスを、デジタル情報を軸としたBIMによる最適化されたプロセスに置き換えてゆくのは、ある意味では現状のプロセスのスクラップ&ビルドともいえるのではないだろうか。

 日本の建設業界が潜在的に抱える「危機構造」とは、従来のプロセスを変えずに、道具として新しいツールの導入だけで乗り切ろうとする考え方であり、「危機構造の脱却」とは、発注者・建設業者・メーカーなどの建設に関わる関係者が一体となって従来のプロセスを見直し、デジタル情報の効率的な作成と活用を目指した新しいプロセスの構築を目指すことから始まる。

日本流の「建設DX」とは?

 最近よく「建設DX(デジタルトランスフォーメーション)」という言葉を耳にする。新しいテクノロジーを導入し、業界を変えてゆくことは、建設業の将来にとって必要なことに違いない。

 日本で建設DXとは何なのかをWebで検索してみた。建設DXの必要性を説いたものは多いが、実際の取り組みとしては、BIM・CIMに期待するものと、ロボット・AI・ICT建機・ドローン・VRなどの新しい技術の活用に関するものに二分される。これだと、建設業の新しい動きや取り組みをひとまず「建設DX」という綺麗(きれい)な言葉でまとめたことにすぎないのではないだろうか?


技術ではなくプロセスを変えるべきであるロボットなどの先端技術 Photo by Microsoft 365 Stock Images

 企業でのDXの取り組みの大半が、成功していないとする海外の報告もある。その理由は、「新しいデジタル技術を組織の中で活用するためには、その変革の取り組みに正しい考え方を取り入れる必要があり、ほとんどの企業がその正しい考え方を持っていないので、成功することができない。デジタルトランスフォーメーション(DX)は、単にテクノロジーを作ってそれを展開するプロジェクトではなく、プロセスなのである」というものだ。DXは、技術ではなく、プロセスを作るためにあるというのは、納得できる話だ。

 ロボットやICT建機などの新しい技術は魅力的だが、施工の現場で活用するには、稼働条件・コストの問題や技術者の育成が追い付かないなどの課題があるということも聞く。プロセスを考えないで、新しい技術の導入をすることが、実務担当者の負荷になってしまう場合もありえる。

持続可能な未来のために

 さて、ここまで建設業界という視点で、プロセスを改革し、デジタル基盤を作る必要があるという説明を行った。ここで、建物を中心とした施設のデジタル基盤が、何を目指すのかということを少し述べておく。


建設業が先導して創る持続可能な未来 Photo by Shutterstock

 建物などの施設は、人が使うモノである。人が住まい・働き・余暇を楽しむ活動する場として建物が必要となる。建設業界は、そのための器としての施設を提供している。この「人の活動情報」をデジタル基盤として蓄積し、より高いレベルのサービスを提供することが、本来のDXであり、「建物を中心としたデジタル基盤」を作るのが、建設業界の役割となる。このデジタル基盤こそが、人が地球で暮らし続けてゆくための、SDGsで掲げている目標を達成するために、大きな役割を持つことになるだろう。もちろん建設業界だけで、実現できるものではない。他の産業と結び付き、建設のデジタル基盤と、他の産業のデジタル基盤が紐(ひも)づけることで、大きな未来が拓けてくるはずだ。

 BIMという「建物の情報を作成・管理するシステム」は、設計・施工のためだけにあるのではなく、建設業界のデジタル基盤の構築を目指すべきものである。それは、人を中心とした持続可能な社会を作るために、建設業界に課せられた社会的使命ともいえる。建設業界は、自らの業務の生産性を向上させながら、持続可能な未来のために、BIM(情報を作成・管理するシステム)への移行を進めなければならない。

 最終的には、BIMを発端とした情報の活用が発展し、人の健康と幸せを作る技術として、成長と繁栄をもたらす技術に成長してゆかなければならない。これが、「デジタル・ウェルビーイング」という概念だと考えている。


BIMを起点とした建設業の成長過程

 本連載「日本列島BIM改革論」では、建設業に対する一つの提言として、各成長レベルにおいて、どのように取り組んでゆくべきかという私なりの考えを順次、解き明かしてゆくつもりだ。

著者Profile

伊藤 久晴/Hisaharu Ito

BIMプロセスイノベーション 代表。前職の大和ハウス工業で、BIMの啓発・移行を進め、2021年2月にISO 19650の認証を取得した。2021年3月に同社を退職し、BIMプロセスイノベーションを設立。BIMによるプロセス改革を目指して、BIMについてのコンサル業務を行っている。また、2021年5月からBSIの認定講師として、ISO 19650の教育にも携わる。

近著に「Autodesk Revit公式トレーニングガイド」(2014/日経BP)、「Autodesk Revit公式トレーニングガイド第2版」(共著、2021/日経BP)。

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