冷蔵倉庫を稼働しつつ行える耐震補強工法、旧耐震基準の冷蔵倉庫に適用可能:施工
東亜建設工業は、独自の方法によって、冷蔵倉庫内の温度を-25度以上のマイナス温度帯に保ったままでも、常温環境下での施工と同等の耐震性能を確保できる耐震改修工事を行える「THJ耐震補強工法」を開発した。今後、東亜建設工業は、同社の「冷蔵倉庫の相談室」を窓口として、積極的に新工法の普及を図る。また、新工法により、旧耐震基準の冷蔵倉庫における建物寿命を延命し、スクラップアンドビルドによる環境負荷を削減する。
東亜建設工業は、稼働中の冷蔵倉庫内をマイナス温度帯に保ったままでも、常温での施工と同等の耐震性能を確保する「THJ(Toa Heating Joint)耐震補強工法」を開発したことを2021年6月30日に発表した。
稼働中の冷蔵倉庫内で施工可能
旧耐震基準に基づいて建てられたフリーザー級冷蔵倉庫は、現在も多くが稼働しているが、それらの多くは耐震改修促進法における耐震性能の判断基準となる構造耐震指標(Is値)で0.6を下回っているため、地震による倒壊あるいは崩壊の恐れがあり、耐震改修の早急な実施が望まれている。
しかしながら、冷蔵倉庫を建て替えるには、倉庫内の荷物を他の倉庫へ一時的に移動しなければならず、仮保管できる倉庫も限られるため、事業に多大な影響を及ぼす。冷蔵倉庫の耐震改修工事を実施する場合にも、冷凍機を一時停止し、倉庫内を常温に戻してから施工しなければならないため、建て替えの場合と同様に一時的に荷物を移動する必要がある。これらの対応は非常に困難であるため、耐震改修が進まないといった現状がある。
そこで、東亜建設工業は、稼働中の冷蔵倉庫内において常温環境下での施工と同等の耐震性能を確保するTHJ耐震補強工法を開発した。
THJ耐震補強工法は、RC造およびSRC造(最上階や屋根がS造も含む)の冷蔵倉庫を対象とし、F1級(-30度〜-20度)冷蔵倉庫の中で最も需要が高い-25度以上のもので適用する。RC造およびSRC造の部位には、柱梁構面内に鉄骨枠付きブレースを増設し、S造の部位には、既存鉄骨ブレースに交換・増設を施す。
通常、鉄骨枠付きブレースを増設する場合、鉄骨枠付きブレースはグラウトを介して既存躯体に間接接合するが、-25〜-20度の温度帯で稼働中の冷蔵倉庫内では、打ち込まれたグラウトは瞬時に凍結するため、施工することが困難だが、同工法ではこの問題を解消している。
具体的には、間接接合部の型枠に面状発熱体および断熱材を設置し、鉄骨枠のウェブにも断熱材を配置した上で暖めつつグラウトを打ち込むことで、常温環境下でのグラウト打ち込みと同等の品質確保を実現。
さらに、これまで-25〜-20度の環境では、間接接合部の構成部材として既存躯体に埋め込まれる接着系後施工アンカーも一般の製品では硬化反応が不十分となり、接着強度を発揮できないが、THJ耐震補強工法では接着系後施工アンカーに-25〜-20度の環境でも十分な接着強度を保つことが可能な製品を採用し、従来の課題を解決した。
また、S造の部位は、既存鉄骨ブレースを交換・増設する際に、ガセットプレートを取り付けるための溶接工事が発生するが、-25〜-20度の温度帯では溶接機器などが凍結するため施工することが不可能だが、THJ耐震補強工法では、東亜建設工業独自の方法を用いて、溶接機器などで保温することにより、稼働中の冷蔵倉庫内でも溶接工事の施工を行える。
新工法の開発に際しては、実際に-25〜-20度で稼働中の既存冷蔵倉庫内にスペースを借りて、実大施工実験を実施して性能を実証した。
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