【第3回】「背中を見ろ」では今の若手は育たない〜建設業界が理解すべき人材育成のキーサクセスファクター〜:建設専門コンサルが説く「これからの市場で生き抜く術」(3)(2/2 ページ)
本連載では、経営コンサルタント業界のパイオニア・タナベ経営が開催している建設業向け研究会「建設ソリューション成長戦略研究会」を担う建設専門コンサルタントが、業界が抱える諸問題の突破口となる経営戦略や社内改革などについて、各回テーマを設定してリレー形式で解説していく。第3回は、企業の持続的発展を支えるキーサクセスファクター(主要成功要因)と成り得る技術力を伝え、次の世代が吸収し、いち早く成長できる“仕組みづくり”の成功例を紹介する。
「効果測定システム」との連動が成功の秘訣
下記は、建設会社A社が社内整備したアカデミーのポイントである。
1.新入社員の垂直立ち上げを実現する『1000日マラソン』の設計
従来、入社後は簡易的な研修を経て支店・現場へ配属という流れがあったが、時間と意欲のある新入社員に対して良質なインプットを提供すべく、まず3年間は徹底的に知識やノウハウをインプットする期間として設計し、座学中心の対面講座を中心としたカリキュラムを構築。
2.研修施設の活用を視野に入れた『リアル×デジタル』の連動による学習カリキュラムの立案
現場での活動が多くなる入社4年目以降は、学ぶべき内容を自社のクラウドシステムへと移行し、いつでも・どこでも・何度でも学ぶことができる仕組みを構築。
また、クラウドシステムの受講に際しては、部門・年次によってクラス分けを実施し、割り当てられた全てのカリキュラムを受講することでアカデミーを『卒業』する運用としている。
将来的には全員が同じカリキュラムを受講することで学びの質が均一化され、拠点や現場毎の品質格差を是正することなどが期待されている。
3.業務遂行に必要なスキルを綿密に棚卸しし、学習の成果として反映できるスキルマップとして展開
教育内容の充実に加え、同社は社員の成長度合いを測定するべくスキルマップを整備。アカデミーでの学び(インプット)と現場での実践(アウトプット)によって習得されたスキルを見える化し、社員それぞれが成長度合いを確認できるツールとして活用するとともに、上長と課題点を共有することでさらなるスキルアップ計画立案の材料としている。
4.アカデミーの一環として全社一丸となった資格取得支援を実施
これまで同社では、報奨金制度などはあったものの、資格取得に向けた取り組みは個人の努力に依存していた。しかし、昨今の経営環境を鑑みると、経営事項審査や公共工事への入札資格という点で資格取得者増加は喫緊の課題であったため、アカデミーの一環として資格取得に向けた勉強会なども開始した。現在では、社内での模擬試験や論作文の添削など手厚いサポートを行っている。
アカデミーのポイントは、インプットだけではなく、その成果を「正当に評価する」ことで、効果測定システムと連動させることにある。教育によるインプットは目的ではなく、『研修(インプット)→業務(アウトプット)→評価→不足スキルに対するさらなるインプット』といった好循環サイクルを社内で構築することで、若手社員の成長が加速化するとともに、研修に対するモチベーション向上と自律的に学ぶ文化(ラーニングカルチャー)の醸成を実現する。
III.キーワードは、いかに”選ばれる企業”になるか
前述した通り、建設業をはじめとするモノづくりの現場で、「技術伝承」や「人材育成」は共通課題である。正しい技術伝承は固有技術の研鑽(けんさん)につながり、確かな差別化要因として自社の競争力を向上させる。また、前述したアカデミーなどの取り組みは、社内のレベルアップはもちろんのこと、採用活動にも大きな効果をもたらす。いまや企業は、いかに学生から”選ばれるか”という視点も持つ必要があるのではないだろうか。
しかしながら多くの企業において、この分野への取り組みは即時的な効果が見えづらく、優先順位が低くなる傾向にある。しかし、中長期的な視野に立脚すれば「人づくり」への取り組みは必要不可欠であり、今の取り組みが10年・20年先の貴社の根幹を支えるといっても過言ではない。タナベ経営では「経営者は望遠鏡と顕微鏡の両方を持て」と提言しているが、足元の対応とともに、10年・20年後の自社はどうあるべきかを考えた一手が、今求められているのではないだろうか。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
- 建設専門コンサルが説く「これからの市場で生き抜く術」(2):【第2回】建設業は“残業規制”にどう対処すべきか?工事監督の業務時間を1日1.5時間削減した事例から
本連載では、経営コンサルタント業界のパイオニア・タナベ経営が開催している建設業向け研究会「建設ソリューション成長戦略研究会」を担う建設専門コンサルタントが、業界が抱える諸問題の突破口となる経営戦略や社内改革などについて、各回テーマを設定してリレー形式で解説していく。第2回は、建設業にも差し迫る時間外労働の上限規制にどのように対応していくべきか、業務改善の事例を交えレクチャーする。 - 建設専門コンサルが説く「これからの市場で生き抜く術」(1):【新連載】縮小する建設市場で新規需要を獲得するためのCRM戦略、建設専門コンサルが提言
本連載では、経営コンサルタント業界のパイオニア・タナベ経営が開催している建設業向け研究会「建設ソリューション成長戦略研究会」を担う建設専門コンサルタントが、業界が抱える諸問題の突破口となる経営戦略や社内改革などについて、各回テーマを設定してリレー形式で解説していく。第1回は、ドメインコンサルティング 東京本部 部長 兼 建設ソリューション研究会リーダー 石丸隆太氏が、人口減少と建築物の老朽化に直面する建設市場で、CRM戦略を見直し、アカウントマネジメントを実施することで、売上拡大と収益性の改善を図る術を提案する。 - Japan Drone2021:中野区で建築調査へのドローン活用に関する共同研究がスタート!参加4団体の共同研究にかける思い
2021年5月6日、中野区、建築研究所、日本建築ドローン協会、日本UAS産業振興協議会は、建築調査ドローン開発の共同研究に関する覚書を締結した。「Japan Drone2021」のカンファレンスでは、共同研究に参加する4団体が、都市部の建築調査にドローンを活用することの意義と、レベル4飛行に向けての課題などについてディスカッションした。 - 続・ビルシステムにおけるサイバーセキュリティ対策座談会【前編】:【続・座談会】“ICSCoE”の育成プログラム修了メンバーが再結集!コロナ禍でセキュリティ意識はどう変わったか?
ここ数年、IoTの進化に伴い、ビルや施設に先端設備やデバイスを接続し、複数棟をネットワーク化することで、“スマートビル”実現に向けた遠隔制御や統合管理が大規模ビルを中心に普及しつつある。とくに、新型コロナウイルスの世界的な災禍で生まれた副産物として、あらゆる現場でリモート化/遠隔化が浸透したことが強力な追い風となっている。しかし、あらゆるデバイスが一元的につながるようになった反面、弊害としてサイバー攻撃の侵入口が増えるというリスクも高まった。脅威が迫る今、BUILTでは、ICSCoEの中核人材育成プログラムの修了生で、ビルシステムに関わる業界に属するメンバーを再び招集。前回の座談会から、コロナショックを経て2年が経過した現在、ビルの運用・維持管理を取り巻く環境がどのように変化したか、東京五輪後のニューノーマルを見据えたサイバーセキュリティ対策の方向性はどうあるべきかなどについて、再び意見を交わす場を設けた。 - COVID-19:afterコロナ後「絶滅恐竜」にならないための建設DX、日揮HDの「ITグランドプラン」や東芝EVの「全工程BIM活用」
新型コロナウイルス感染症の感染拡大に伴い、一気に進展したここ最近の働き方改革では、各社ともに、在宅勤務やテレワークの導入だけに注目されることが多い。しかし、その先のafterコロナ後の世界では、ワークプレースを柔軟に選択できる“ハイブリッドワーク”が基軸の考えとなり、実現に向けた業務の効率化や自動化といったデジタル変革は、建築やエンジニアリングの分野でも、避けては通れないものになるだろう。オートデスク主催のセミナーから、IDC Japanによるハイブリッドワークの潮流や日揮ホールディングスの工期2分の1を掲げた全社IT推進、東芝エレベータの維持管理段階も含めたBIM活用などの実例から、如何にしてafterコロナの市場を生き抜くか、ヒントを探った。 - メンテナンス・レジリエンス OSAKA 2020:敷地面積50haのロボット開発拠点「福島ロボットテストフィールド」、2020年3月に開所
福島県南相馬市に、ロボット開発拠点「福島ロボットテストフィールド」が開所した。敷地面積50ヘクタールの広大な土地に、インフラ点検、災害対応エリア、水中/水上ロボットエリアなど、さまざまなロボットの実証実験を行う設備が揃(そろ)っている。