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マンション再生の円滑化に向けて──法令動向を読み解くマンション建て替えフォーラム(2/4 ページ)

戦後高度成長期に供給された多くの集合住宅が老朽化し、各地でさまざまな問題を引き起こしている。「高経年マンション」と呼ばれる老朽マンションの再生は、社会課題となり、法制度の整備や民間事業者による建て替えなど、さまざまな取り組みが活発化している。2021年6月4日に開催された「マンション建て替えフォーラム」は、各当事者が多様な取り組みについて紹介するオンラインセミナー。その中で、国土交通省 宿本尚吾氏の基調講演を採り上げる。

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老朽化マンションで住民が建て替えを望まないケース

 「マンションの一生」は、まずマンションが新築され住民が入居すると、次に住民たちが管理組合を組成し、日常のマンション管理を行う。そのなかで毎月修繕積立金を集め、これをもとに外壁修繕や屋上防水工事、各種設備工事など、計画的な大規模修繕を進めていく。

 こうした管理が重要なのは当然だが、適切に行ってもいずれ修繕・改修だけでは対応しきれなくなる。このときに、全住民の5分の4の合意で建て替えを行うのが一般的だと宿本氏は語る。だが、老朽化が進んだマンションでは住民が建て替えを望まないこともある。

 この場合には、「マンション・敷地の売却も選択肢の一つとなり得る」というのが宿本氏の指摘である。マンション建て替え法に基づく、「要除却認定」を受ければ、住人の5分の4の同意で敷地売却が可能になる。要除却認定は2014年度のマンション建て替え法改正で制度化され、2021年度の改正でさらに拡充が進んだ。従来は、マンション老朽化の程度判定に感覚的な判断も含まれたが、現在は専門家が客観的基準で判断する正確なものとなった。いわば建築の素人が大半を占める管理組合を支援し、敷地売却を後押ししてくれる法的な枠組みであり、宿本氏自身もこの要除却認定をトリガーにマンション再生の円滑化が進むことを期待していると口にする。

 こうしたなか、マンション建て替えそのものも大きく変わりつつある。初期のマンション建て替え事業では容積率などに余裕がある物件も多く、建て替え後の利用容積率が2〜3倍になるケースも多々あった。しかし、近年は容積率の余裕は無くなり、他方では区分所有者の平均負担額は増加傾向にある。戸建て住宅と同じく、相応の負担をしながら建て替える流れが強まっているのだ。しかも今後、より大規模なマンションが多数建て替え検討時期を迎え、大規模なだけに5分の4の合意形成もより難度を増していく。だからこそ円滑化が求められているのである。


大規模な団地型マンションの建て替えが検討時期へ 出典:国土交通省

マンション建て替え法の改正1:概要

 2020年の通常国会で改正されたマンション管理の適正化法とマンション建て替え円滑化法は、円滑化へ向けた国土交通省による施策の一つである。宿本氏は、この法整備でマンション管理の適正化について基本方針を国が策定し、その上で地方公共団体のマンション管理の取り組みを促していくのが狙いだとする。例えば、マンションが多い地方自治体でマンション担当者をきちんと配置するよう促し、さらに管理組合が作る優秀な管理計画を認定するなどの仕組みを設ける。こうして、日常管理から適正な計画修繕に至るサイクルを確立させようというのである。

マンション建て替え法の改正2:要除却認定

 一方、老朽化が進み、管理修繕だけでは維持困難になった高経年マンションへの対策としては、前述した要除却認定の対象拡大がカギになると宿本氏は提言する。「要除却認定」と言っても、今すぐ除却が必要という意味ではない。あくまで「除却や建て替えも選択肢としてあり得る」という認定であり、従来の維持管理フェーズから除却・建て替えフェーズへ移行したとのメッセージなのだ。そもそも、耐震性不足の建物を放置するわけにはいかない。耐震改修や建て替えが必要なのは当然で、何らかの取り組みを考えるべきフェーズにあると認識すべきなのだ。


要除却認定の対象拡大がカギになる 出典:国土交通省

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