「足羽川ダム」設計のCIM適用で業務効率化の実例、200枚超の図面作成を自動化:Autodesk University 2020(4/4 ページ)
小規模を除く全公共工事でのBIM/CIM原則適用へ向け、ここ数年、運用対象が拡大している。しかし、土木の設計業務へのCIMの普及・定着は遅れ気味で、その促進には実現場でのBIM/CIM導入効果の実証が必要だ。日本工営では、足羽川ダム建設プロジェクトで設計業務の分析を行い、CIMで効率化可能な部分を抽出。実際にCIMを用いて効率化を進めている。オートデスク主催のオンラインイベント「Autodesk University 2020」で、同社の山田憲治氏が行った発表から、取り組みの内容を紹介する。
作成モデルの活用1:リフトスケジュールへの適用
「ダム設計ではリフトスケジュールと呼ばれる表を作成します。これは“どのブロックを打設する予定日”を記載したものです。しかし、プロジェクトの流れのなかで打設のタイミングは頻繁に変更されます」。そのたびに4Dモデルを修正するのは大変な手間なので、今回はリフトスケジュールのExcelデータをNavisworks上へインポートすることで4Dモデルの作成を自動化した。
また、この業務ではゲートなどの鉄構造物設計も同一業務に含まれているため、施工計画の立案で、座標系や表示する項目(4Dモデル上で表示したり消したりする項目)、表計算出力形式などの項目を標準化することにより、これらの統合作業も自動化している。
作成モデルの活用2:他工種の合成と確認、修正
「では、実際に4Dモデル上で他工種との統合を実現した例を紹介します。これは掘削した後から別の業務で作成した鋼構造物のモデルを合成し、確認・修正して統合していきました」。
今回の現場では、前述の通り低標高部の敷地がかなり狭いこともあり、その問題箇所だけを抽出した詳細な工事計画の検討用4Dモデルも作成した。工事の区分け用の柵や重機など機械系を4D上に配置し、さまざまな検討を行うのだ。これは単に施工計画として見せるためだけのものではない。関係者間でこの4Dモデルを見ながら突き合わせ、「ここは問題なのでは?」など、細かく確認し合ったものを施工計画に戻し、修正するためである。
作成モデルの活用3:景観検討での活用
「CIMで作成した3Dモデルがあれば、景観検討用の資料なども簡単に作成可能です。足羽川ダムでは、非常用洪水吐を堤体左右に5門ずつ設置しましたが、『これをどのブロックに配置するか?』また、『それは景観にどう影響するか?』といったことがパースによって分かりやすく検討できました」。
こうした検討用のパースも一から作ろうとすると大変な作業になりがちだが、いったん作成した3Dモデルなら修正も簡単なので、計数時間程度の作業で複数のイメージを作り出すことも難しくない。同様にダムで夜間イベントを実施した場合の検討用イメージや周辺住民への説明用にVRモデルを作成するなど、3Dモデルの活用領域は大きく広がった。
「CIMとは一つのモデルを調査・設計・施工・維持管理まで使うことで、各業務管理の効率化を図ろうというものです。今回ご紹介したのは、そのうち調査設計部分の活用法となります。足羽川ダムの現場も間もなく施工段階を迎えます。そこで、精算作業への活用なども視野に入れながら、施工段階へのCIM技術の適用を検討していきます。今後は維持管理分野への対応はもちろん、その先にある“今後のダム設計”や“再開発に向けたダムデータベースの開発”などが重要な目標となるでしょう。新たなダム建設が難しくなるなか、再開発事業の重要さが増しており、“昔の図面がない、情報がない”状況が一番の問題となります。そこで私たちはどんなデータを残していくべきなのか──取り組んでいきたいですね」。
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