【第2回】大規模修繕工事で“一部除却”が難しい理由:建物の大規模修繕工事に対応できない会計学と税法(2)(2/2 ページ)
本連載では、建物の大規模修繕工事で生じる会計学や税法上の問題点やその解決策を千葉商科大学 専任講師 土屋清人氏(租税訴訟学会 常任理事)が分かりやすくレクチャーする。第2回は、大規模修繕工事で会計処理の一部除却を行うことが困難な理由を明らかにする。
数量・単位に隠れた物量計算
会計人を悩ますものに単位がある。図表3のように工事内訳書の多くは、単位の欄に「式」と記入され、数量の欄には「1」と記入されている。
多くの会計人は、この数量「1」と単位「式」の意味を知らないため、一部除却ができないと思い込んでいる。この数量「1」と単位「式」が理解できれば、建物が物量計算によって構築されていることを把握し、すなわち一部除却が可能なことが分かるだろう。
建築工事内訳書標準書式検討委員会で制定された「2003年(平成15年)版 建築工事内訳書標準書式・同解説」において、「式」の意味が示されている。詳細は、紙面の関係上省略するが、簡単にいえば、建物は物量計算によって成立しているということだ。
工種別に個々の科目は「数量×単価」という計算によって算出されている。建物は大部分が工種別の積み上げ計算であるため、物量計算といえる。つまり、大規模修繕工事の際に除去した数量が分かれば、一部除却が可能なことが理解できる。
しかし、単位の欄に「式」と記入され、数量の欄には「1」と記入されていては、建物が物量計算によって成立していることを理解するのは困難であろう。従って、物量計算の十分な根拠が示されていないものは、岩田理論から言えば、エビデンスと呼ぶには問題がある。
会計人が工事内訳書を学ぶ or 建設会社が会計学・税法を学ぶ
会計学の専門書では、エビデンスをもとに会計処理を行うことの大切さが記述されている。しかし、エビデンスの読み方、解読の仕方について言及するものは、非常に少ない。
仮に一部除却を行うにあたって建築の専門家が会計などの知識を付ける方が得策なのか、または、会計人が工事内訳書などの専門知識を得る方が得策なのか、考えた場合、どちらも他の学問領域の知識を修得するのは、決してたやすいことではない。
そう考えると一部除却は普及せず、クライアントは架空資産を発生させ、無駄な税金を払いつづけるという問題に陥る。一部除却ができないということは、大規模修繕工事の資金調達の足かせになり、持続可能な社会構築、循環型社会形成を阻害することになるのだ。
次回は大規模修繕工事を阻害する大増税の仕組みを解説する。
著者Profile
土屋 清人/Kiyoto Tsuchiya
千葉商科大学 商経学部 専任講師。千葉商科大学大学院 商学研究科 兼担。千葉商科大学会計大学院 兼担。博士(政策研究)。
租税訴訟で納税者の権利を守ることを目的とした、日弁連や東京三会らによって構成される租税訴訟学会では、常任理事を務める。これまでに「企業会計」「税務弘報」といった論文を多数作成しており、「建物の架空資産と工事内訳書との関連性」という論文では日本経営管理協会 協会賞を受賞。
主な著書は、「持続可能な建物価格戦略」(2020/中央経済社)、「建物の一部除却会計論」(2015/中央経済社)、「地震リスク対策 建物の耐震改修・除却法」(2009/共著・中央経済社)など。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
- 【新連載】サステナビリティと循環型社会形成は会計・税務では不可能!建設業の打開策を説く
- “HoloLens 2”でマンション外壁の打診検査を1人で完了、長谷工版DXが本格始動
長谷工コーポレーションとアウトソーシングテクノロジーは、日本マイクロソフトと連携して、最先端のデジタル技術を駆使した建設・不動産業界の生産性改革を推進していくと発表した。初弾として、マンションの外壁タイル打診検査を対象に、検査員1人だけで完了し、報告書作成の業務量を半減するMixed Realityソリューション「AR 匠RESIDENCE」を共同開発した。 - 【第6回】「迷走する設備BIMの後れを取り戻せ!」(前編)
日本での設備BIMがなかなか進んでゆかない。これは大和ハウス工業も例外ではない。しかし、日本の設備業務は、意匠・構造とは異なる“特殊性”があり、これがBIMに移行しにくい原因とされている。しかし、BIMに移行するためには、設備のBIM化を避けて通ることはできない。どう乗り越えてゆくかが重要な鍵になる。そこで、設備BIMが置かれている現状の課題を分析した上で、設備BIMのあるべき姿を示し、設備がBIMに移行するために何をしなければならないかを、同社技術本部 建設デジタル推進部 次長・伊藤久晴氏が前後編の2回にわたり詳説する。 - 【新連載】建築関係者のためのFM入門、「ファシリティマネジメント(FM)とは何か」
企業にとっての財産・資源は何であろうか。人であり、金であり、情報である。そしてもう一つ大事なものは「もの(ファシリティ)」である。一般に、人・金・情報・もの(ファシリティ)の4つが経営資源といわれる。これらをいかにマネジメントするかが、経営者の手腕である。しかし、ファシリティについては、経営資源として十分に活用されていないのが現実である。それゆえ不利益と損失を被っている。これら4つの経営資源をマネジメントすること、すなわち人は人事、金は財務、情報は情報システム、ファシリティはFMとしてマネジメントし、「第4の経営基盤」とすることが必要とされている。ある目標に向かって、これらをいかにマネジメントするかで、企業の成否は決まる。FMは日本企業が見過ごしてきた経営基盤といえる。 - 市職員が自ら橋梁を補修する「橋梁補修DIY」を開始した理由とは?
熊本県にある玉名市役所は、橋梁を職員が補修する取り組み「橋梁補修DIY」や事前点検の効果見える化などにより、2017年度までに点検が完了した橋梁747橋のうち、橋梁判定区分III(早期措置段階)とIV(緊急措置段階)の修繕着手率が100%を達成した。一方、国土交通省は公共団体が発注した業務を受託した民間会社が受注業務を効果的に行える制度「包括的民間委託」を立ち上げ、東京都府中市で試行し、従来方式と比較して、コストカットなどで効果を発揮している。