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トータルファシリティサービスの誕生やリーマンショック後の欧州FM業界の変化欧州FM見聞録(2)(2/2 ページ)

本連載では、ファシリティマネジメント(FM)で感動を与えることを意味する造語「ファシリテイメント」をモットーに掲げるファシリテイメント研究所 代表取締役マネージングダイレクターの熊谷比斗史氏が、ヨーロッパのFM先進国で行われている施策や教育方法などを体験記の形式で解説する。第2回は、2000年代中盤から2010年にかけて欧州のFM業界で起きた変化やリーマンショック後に欧州のFMがどう変化したのかを紹介する。

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FM変革の大きなうねり(2)

 もう1つの流れは、ワークスタイルの変革であった。2007年の欧州カンファレンスで“New Way of Working”というキーワードを聞いた覚えがある。伝統的に欧米、特にヨーロッパのオフィスではこれまで、マネジャーは個室で業務に取り組み、一般スタッフは4〜5人にまとまり1つの部屋でデスクワークを行っていた。

 こういった慣習を大胆に変えたのがNew Way of Workingだ。New Way of Workingは、壁を取り払い、マネジャーと一般スタッフが同じワークプレースで働けるようにして、設(しつら)えもよりコミュニケーションを中心としたデザインにすることを指す。いつ頃から、そして、何が原因でこういった取り組みが生まれたのかは分からない。

 また、New Way of Workingはワークプレースを自由に選べる概念「フリーアドレス」を前提としている。昨今の日本では、“アクティブベースドワーキング(ABW)”という概念の方が、FM・ワークプレース業界では知られているが、ほぼ同じ概念として考えて良いと思う。後から知ることになるが、ABWが初めて実現されたのは、オランダの保険会社Interpolisで、1990年代中盤に実現している。

 著者は2008年、Saxion大学で日本と韓国の実務者向けに行われた特別コースで、Microsoftのオランダ本社や農協系銀行Rabobankのパイロットオフィスを訪問し、New Way of Workingを体感した。両社が保有するオフィスは、カフェのようにおしゃれで、生き生きとしていたことを今も鮮明に覚えている。Rabobankは、2010年に新本社ビルを建て、4000人の対象従業員にNew Way of Workを導入している。


Rabobankの外観

New Way of Workingを採用した某企業のオフィス

リーマンショック後のFM

 2008年に突如発生したリーマンショックで、このNew Way of Workingはさらに加速していった。その理由は2つあると筆者は考えている。1つは、コスト削減のプレッシャーが強まったことである。2つ目は、株主資本主義への反省である。もともと欧州では、労働者の権利が強かったが、株主資本主義において、従業員よりも利益を優先してきたが、リーマンショックが起きた時に従業員が疲弊していることに気づき、従業員が働く環境を改善する動きがさまざまな会社で起きた。この矛盾するかと思われる2つの要因が求めるニーズをNew Way of Workingは満たした。

 New Way of Workingについては、筆者は“4−2法則”と呼んでいる。New Way of Workingはフリーアドレスを前提としているので、極端に言えばこれまでのオフィス面積を4割減らせるため、コストカットに貢献する。

 さらに、半分(2割相当)を新しいオフィスの設えやカフェテリアといったスペースにリノベーションすることや、よりサービスを充実化することで、従業員が快適に働ける環境を整備できる。この2割には、1996年に著者がオランダで出会った「FMのホスピタリティ」(連載第1回解説)がより重要視されていった。

著者Profile

熊谷 比斗史/Hitoshi Kumagai

ファシリテイメント研究所 代表取締役マネージングダイレクター。1986年に富士ゼロックスにソフトウェア開発として入社。1990年に同社のオフィス研究所に異動後は一貫してファシリティマネジメントに携わる。JFMAへの出向やオランダFM大学院、イギリスFMアウトソーシング会社での研修、国内でのFMビジネスを経験する。2007年、イギリス系不動産コンサル会社DTZデベンハム・タイ・レオンに入社。グローバルFM/CREコンサルタントに従事。その後独立し、2012年にファシリテイメント研究所を設立し、今日に至る。ユーザーのイクスピリエンス(感動体験)を創るホスピタリティFMを目指し、CREやワークプレースプロジェクト、FM管理業務からFMのIT分野まで幅広くコンサルティングを提供する。

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