“土木テック”の最先端では何が起きているか?インフラAI点検の「フランチャイズ構想」:土木管理総合試験所が描く土木のビジョン(3/3 ページ)
長野県長野市に拠点を置く土木管理総合試験所は、インフラの維持管理が抱える慢性的な人手不足や人材を採用しても売り上げが伸ばせなくなっている現状に対し、100年後にも持続可能なインフラの維持管理を実現すべく、自社だけに限らない多様な業種との共創も見据えた“土木テック”の研究を進めている。ロボットや点群、AIといった土木テックによって、従来はマンパワーに依存していたインフラ点検が効率化され、長期的な視点で防災・減災や国土強靱化につながると期待されている。
大学と共同で開発した画像診断AIを採用
そこで、土木管理総合試験所は、内閣府に創設された科学技術イノベーションを創出する「戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)」で掲げる5つの課題のうち、「インフラ維持管理・更新・マネジメント技術」のプログラムディレクターとして参画。その過程で大学とタッグを組み、特殊アルゴリズムを採用した機械学習の画像診断AIを開発した。
画像診断AIの優位性としては、これまでのように資格者で無くても不具合の判定が可能になり、教師データで学習を重ねることで見逃しの減少や溶接部のブローホール検出といった他の用途への水平展開も見据えている。
また、画像診断とは異なる専用のAIを搭載したROAD-Sは、MMSの電磁波探査レーダーで集めた路面データを自動解析することで、1キロあたり数秒で路面下の空洞を検知し、診断結果が出力される仕組み。ROAD-Sで得られたデータは、詳細調査の要否や優先順位、範囲の判断に役立ち、発注機関への提案につなげられる。建設コンサルによる調査・設計の後には、修繕予算計画の立案にも活用できるため、インフラのライフサイクル全体でのコスト低減も見込める。
現在は、自治体など道路管理者の利用を想定して、ROAD-Sのデータを管理するプラットフォームのテスト導入を進めている。データ閲覧はWebブラウザベースで行い、自治体が保有する道路地図の代替となるもので、Google マップに似た地図に、MMSで計測した道路と橋梁のデータやAI解析にかけた空洞情報を登録。危険箇所は、現場のサムネ画像とともに道路上の点で異常度ごと色別に表示されるため、補修すべき順番を決めて修繕計画を立てるのに役立つ。調査年別にデータは保存できるため、過去のデータが蓄積されることで、コストを抑えた形で長期的なインフラ維持・管理が実現する。
インタフェースは、使い勝手を重視し、住民基本台帳システムなどと同じようなデザインを採用している。これからは、400〜500キロの道路を網羅できるため自治体の土工部や橋梁部をはじめ、NEXCO、カスタマイズして鉄道会社などへも採用を呼び掛けていくという。
ROAD-Sの次の展開では、各地域の建設コンサルタントと協力して、全国でのインフラAI点検のフランチャイズ展開も視野に入れる。そのために必要となるのが、門戸が開放された土木テックのテストフィールドとなるだ。土木テックの開発企業は、実証を行う場所を探すことに右往左往することが少なくなく、海外でテストするケースも多い。
土木管理総合試験所では、土木テックの研究専用施設を北海道苫小牧市に開設する目的で、2020年内の完成を目標に同年春に着工した。建設予定地は、約2万3000平方メートルもの広大な土地で、研究棟の他、屋外の実験スペース、ROAD-Sのテストコースも整備。自社だけの利用ではなく、ゼネコンや建設コンサル、ITベンダー、大学などとの産学官の開かれた協創の場とし、50年後、さらには100年後のインフラを守る新たなテクノロジーを創り出してゆくことを目指している。
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