【欧州FM見聞録】ヨーロッパ各国で体験したFMから、将来を読み解く:欧州FM見聞録(1)(2/3 ページ)
建設業界でも大手ゼネコンを中心にIoT活用やBIM連携など、先進的な事例が見られるようになってきている。本連載では、ファシリティマネジメント(FM)で感動を与えることを意味する造語「ファシリテイメント」をモットーに掲げるファシリテイメント研究所 代表取締役マネージングダイレクターの熊谷比斗史氏が、ヨーロッパのFM先進国で行われている施策や教育方法などを体験記の形式で解説する。
FMアウトソーシング発祥の地はイギリス
JFMAの視察団が1996年、ヨーロッパに派遣された理由の1つは、FMのアウトソーシングを見ることだった。FMはアメリカで発祥しているが、FMのアウトソーシングは1990年代初頭にイギリスで出現した。
1991年に、イギリスIBMのFM部門が独立したPROCODEという会社の評判が日本でも話題になったが、1990年代前半は、イギリスで多数のFMを事業として扱う会社が設立された。筆者が研修したイギリスXeroxから独立したCBXをはじめ、多くのファシリティマネジャーがスピンアウトし、会社を作っていった。
当時日本でも、清掃や設備管理などを外注することは当たり前になっていたが、日本で行われていた外注形式と、イギリスのFMアウトソーシングは異なる。イギリスのFMアウトソーシングは、企業の中(インハウス)で、清掃や設備管理などの業務を発注とマネジメントする担当者達が独立し、所属していた企業からの発注を受注する二重の発注構造を形成していた(図1)。これを筆者はFMアウトソーシング第1世代“マネジメントスピンアウト”と呼んでいる。
オランダを含むイギリス以外の欧州諸国では、1990年代後半はアウトソーシングそのものが進んでいなかったが、イギリスでの“マネジメントスピンアウト”の流れを認識し、会社の組織内でもFM部門が「サービスを提供する」という意識が強まり、ユーザーとサービスレベルアグリーメント(SLA)を決めることが一般的になっていった。前述のスキポール空港の「サービスカタログ」はこのSLAをユーザーに分かりやすく説明している。
FM組織論
前述した欧州のFMカンファレンスは、6月頃に毎年違う都市で開催され、各国からの参加者も、さまざまな国の街を訪れることを楽しみにしている。大概の場合、カンファレンスが開かれる都市の歴史的な建造物でガラディナー(晩さん会)が開かれ、参加者は、正装(筆者はスーツに蝶ネクタイ程度であるが)に着飾り、円卓を囲んで夜遅くまで語らうことが楽しみの1つであった。
1990年代後半から2000年代前半にかけての欧州で、FMカンファレンスの発表やディナーでの会話では、“FMの組織はどうあるべきか”ということがメインテーマになっていた。インハウスのファシリティマネジャーの多くが、自身の存在意義を語り、FMのアウトソーシング会社は、「クライアントのパートナー」として戦略的に貢献することを強調していた。
1990年代後半には、PROCODEを買収したJohnson Controlsのように、小さな第1世代アウトソーシングを買収し規模を大きくする会社が現れ始めた。これを筆者はFMアウトソーシング第2世代“マネジメントエージェント(管理代行)”と呼んでいる。
既に1996の視察団の時には、PROCODEはJohnson Controlsになっていた。第1世代と同様に、発注と管理する立場を代行するが、実サービス全ての契約も、自らの契約に一括するという形態に変化しつつあった。実サービスの提供は再委託という形で、発注金額も明確にし(オープンブック)、むしろその品質管理や発注金額の縮小などに指標(KPI)を定め、管理代行としての受託料にボーナスとペナルティーを設ける“マネジメントフィー・アット・リスク”という契約形態が出始めていた。
マネジメントフィー・アット・リスクで、インハウスのファシリティマネジャーが、より明確な成果を挙げる責任を負い、プレッシャーを感じるようになった。また、この頃から、全てのFM業務を一括でアウトソーシングする統合FM(IFM)という言葉も聞かれるようになってきた。
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