AIの本質は「最適化手法」にアリ!インフラメンテ最大の壁“暗黙知”を言語化するには?:インフラメンテナンス×AI(2)(3/3 ページ)
国内の土木分野では、インフラの老朽化という喫緊の課題が差し迫っており、道路橋を例にとれば建設後50年に達するものが6割にも及ぶとされている。建設業界での慢性的な人手不足の解消と、必要とされる事後保全から予防保全への転換で必須とされる新技術と期待されるのが「AI」だ。土木学会とインフラメンテナンス国民会議のシンポジウムから、インフラメンテナンス領域でのAI活用の最新動向を追った
“暗黙知”を言語化する試み
AIが説明するには、人が経験やノウハウで健全か不健全かを判断している“暗黙知”を言語化することができなければ、AIに置き換えることもできない。
このためには、「これまで土木技術者が怠ってきた、説明というルールを定式化する必要がある。しかし、1970年以降、エキスパートシステムが選択肢を多く作って全部説明させようとしたが、限界に当たり使われなくなり下火になった理由と同じように全てを説明できるというわけではない」(大島氏)。
土木分野の点検で、客観的に判断する損傷度と健全度(対策区分)には必ずしも一致しておらず、ギャップがあり、写真の解像度や計測の精度(入力値)を上げれば済むことではない。AIのルールベースでのアプローチには限界があり、確率的や統計的な処理で、全てを決められるかにも疑問が残る。
暗黙知の説明には、ひび割れ幅○○ミリ以上やサビ汁○○%以上、漏水後が○○といった範囲で、定量的条件となる“閾(しきい)値”を定めることが欠かせない。仮に橋梁の点検要領で、絶対的なルールを作ってしまえば、AIで自動的に判定することも容易になる。
理論的には、AIによる暗黙知は実現可能だが、コスト面での課題がある。「アルゴリズムを構築してAI化するよりも、アルバイトを100人雇って判定した方が格段に早くて安いという意見もある。データを仮に1万個そろえればできるが、誰がデータを生成・整備するのか、ルールを見つけ出すのは誰がやるのかという問題が生じる。現実的には、過去物件のカルテ検索や定量的条件の影響が少ない領域でのスクリーニングなどに、適用範囲を絞ってAIを用いることが想定される」(大島氏)。
大島氏の研究では、PC桁塩害診断のプロセスを言語化する取り組みでは、人が暗黙知でやっていて、誰も説明もしていなかったプロセスを細かく書き出し、フローチャートにして可視化した。
大島氏は、暗黙知の言語化をクリアする解決策の一つとして、人の目線の動きを見える化する「アイトラッキング」技術を挙げた。アイトラッキングでは、点検の初心者と熟練者で、見た順番と見ていた時間を数値と円で表示。なぜその箇所を見たのか、なぜその順番なのかを熟練者に聞けば、チェック漏れを無くすためや腐食の程度を知るためなど、説明できるようになった。
これにより、ただ写真を見せただけではできなかった暗黙知の説明が実現し、AI学習で必要なデータにタグ付けする“アノテーション”にも役立てられる。
Society5.0時代では、フィジカル空間でセンサーやIoTでデータを取得し、集積したビッグデータをサイバー空間上のAIで解析して現実空間にフィードバックすることが想定されている。しかし、インフラ分野で重要なのは、いかにしてデータを取るかがハードルとして立ちはだかる。
そのためには、今までのように構造物だけを考えるのではなく、橋や建築物、電線、線路などインフラそのものをセンサーにしてしまえば、取得したデータを経済活動や渋滞情報、強風予測、降雨予知などへも応用できることが見込める。
その際に注意すべきポイントを大島は、「新たにセンサーを設置するのはコスト的に見合わない。検出の精緻さは求めないことだ。例えば高速道路には通信用の光ファイバーが通っており、こうした既にあるセンサーを改造することなく自然体で記録する。データの中には、車両の通過をはじめ、気温、地震、降雨、風などの情報が含まれている。設置コストゼロで、データが得られる」と提案した。
最後に大島氏は総括で、「AI技術は根本的には最適化ツールであることを理解し、土木分野でも最適化させたい作業を土木技術者が判断して適用する。AIに点検結果の説明を求めるならば、まず自分の行為を説明(=ルールを作る)しなければならない」とまとめた。
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