AIの本質は「最適化手法」にアリ!インフラメンテ最大の壁“暗黙知”を言語化するには?:インフラメンテナンス×AI(2)(2/3 ページ)
国内の土木分野では、インフラの老朽化という喫緊の課題が差し迫っており、道路橋を例にとれば建設後50年に達するものが6割にも及ぶとされている。建設業界での慢性的な人手不足の解消と、必要とされる事後保全から予防保全への転換で必須とされる新技術と期待されるのが「AI」だ。土木学会とインフラメンテナンス国民会議のシンポジウムから、インフラメンテナンス領域でのAI活用の最新動向を追った
ジョイント通過音を機械学習で判定
2011年には、阪神高速道路で、ジョイント部分の点検を自動化することを目的にしたAIの実証にも着手した。一般的なジョイント点検は、特殊車両の“黄パト”に技術者が搭乗して、ジョイントを通過したときの音を聞き分け、異常を感じたら車から降りて調べており、人の感覚によってスクリーニングを掛ける手法が採られている。しかし、熟練技術者の感覚に依存した手法のため、高齢化や後継者不足に伴う技術の空洞化が懸念されていた。
大島氏の手法では、まず車両にマイクを装着し、ジョイント通過音を収録。ニューラルネットワークにカオスアトラクタを学習させる機械学習モデルを構築し、取り付けボルトの緩みや摩耗・鋼板破断といった箇所を識別することを試行した。
ベースとなった研究は、2005年に車両振動を利用した橋梁構造物の簡易的な健全性評価法。車の揺れから橋梁の状態を評価するもので、線路のゆがみや架線の状態などを走行しながら計測する新幹線区間用の専用列車「ドクターイエロー」の道路版を目標とした。
その先の構想では、最近の自動車にはGPSをはじめ、多様なセンサーが搭載されていることを踏まえ、定期点検の空白補完とセーフティネットの意味合いで、一般車を介したビッグデータ活用も視野に入っていた。
また、その後の2014年には、ロボット工学では世界的にも有名な米カーネギーメロン大学とともに、車両の入力値から異常値を機械学習で検知する実験も行った。同大学が研究していたパターンマッチングで速度補正を掛けると、60%の検知率が97%までに向上したことで、大島氏は土木分野でのAI活用に確信を持ったという。
AI技術と呼ばれているものとは何かについて再度考察してみると、大島氏の定義するところでは、「数学的には目的関数を設定して最小化になるものを選ぶ“最適化手法”であり、選択肢(ルール)を作り、ベストなものを探す、数学的なアルゴリズムだ」と語った。
さらに「現在では分類、予測、推薦、最適化、識別といったAIの用途が提案されてはいるが、根底にあるのは最適化手法だということを認識しなければならない。AIをより活用するための学習には、ルールと定義が不可欠で、目的関数や選択肢を設定することも欠かせない」と注釈した。
現に先端のAIとされるGoogle DeepMindによって開発されたコンピュータ囲碁プログラム「AlphaGo」も、ルールありきで、ゲーム(囲碁)の中で最適な手を打つディープラーニングと強化学習を組み合わせた深層強化学習のアルゴリズムの一例。基礎には、予測と答えの誤差を最小にする技術が用いられている。
同様にIBM基礎研究所が開発した検索エンジン「IBM Watson」も、過去のカルテ検索や電話応答の模範解答といった検索でも、検索ワードに一番近いものを探し出す最小化/最適化の手法がベースにある。
最も顕著なケースとして大島氏は、2011年にスタートしたAIで東京大学に合格するプロジェクト「ロボットは東大に入れるか」の中心メンバー情報学研究所の新井紀子氏の印象的なコメント「大学の入学試験で上位20%の成績を収めました。何も理解することなしに」を引用した。AIは、数学的な処理で最適な解を見つけ出しているだけで、正しく理解しているわけではない。本質的には数学のアルゴリズムとしての範ちゅうに限定されているに過ぎず、AIが意味や説明をするためには、データを定義付けしなければならない。
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