AIで生物反応槽の“曝気”を効率化、従来比で消費電力を10%削減する新技術を開発:AI(2/2 ページ)
国内の下水処理は、全国における年間電力消費量の約0.7%に相当する約70億キロワットの電力を消費している。一般的な下水処理施設では、下水中のアンモニアなどを除去するために、生物反応槽で微生物を用いた酸化処理を行っている。微生物反応に必要な酸素を送り込む“曝気(ばっき)”で使用電力の半分を消費しているため、業界では曝気の効率化が望まれている。三菱電機はこういったニーズを考慮し、曝気量を従来比で10%削減する新技術を開発した。
大雨や計測器故障の影響を受けない
新技術に採用されたMaisartは、これまで蓄積したデータベースの中にある類似パターンを複数参考にし、流入水質の変化を推測することで、ゲリラ豪雨のような大雨や計測器故障の影響を受けない。使用されるデータベースは自動で更新されるため、高い予測精度を維持する。
2020年1月22日に開催された記者発表会で、三菱電機 先端技術総合研究所 環境システム技術部長の古川誠司氏は、「Maisartは周期性がある対象物の分析に優れており、生物反応槽への流入水はこれに当てはまるため、適用に至った。現状、基準の値からプラスマイナス10%程度の数値を弾き出せる精度だ。雨量の分析などにも使える可能性がある」と説明した。
さらに、「水質センサーやAI、演算システムは有線の他、顧客の意向を考慮しWi-Fiなどでつなげることにも対応していきたいと考えている」と語った。
最後に、古川氏は、「当社が実施したシミュレーションによれば、新技術は従来の方法に比べ、処理水アンモニア濃度の制御性が向上することが明らかになっており、従来比で、利用する曝気量を10%削減できることが判明している。国内の下水処理は、全国で年間約70億キロワットの電力を消費しており、その内半分は曝気に用いているため、仮に全下水処理場が新技術を導入すれば、年間3.5億キロワットの電力消費量削減を実現する」と解説した。なお、三菱電機は、新技術を実運転で安定性や曝気量の削減効果を検証した後、下水処理場向け運転監視制御システムとして2020年度の事業化を目指し、研究と開発を推進する。
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