4階建て中規模オフィスビルで設計段階では日本初、『ZEB』認証を取得できた要因とは?:三菱地所設計のZEBへの挑戦(2/3 ページ)
近年、環境に配慮する企業の増大に伴い、ZEB(net Zero Energy Building)認証を取得するオフィスビルが増えている。国内のZEB認証取得済みのオフィスビルは、郊外に建築物を建て広い敷地を最大限に利用し、多くの太陽パネルを設置したり、エネルギー使用量を多大に要する設備を配置しないというものが多いのが現状だという。これに対し、三菱電機の「ZEB関連技術実証棟」は、食堂なども設けた4階建て中規模オフィスながら、建物単体で『ZEB』を実現すべく設計されている。
東西に開口部をなくし、南北面に設置
実証棟の設備を担当した機械設備設計部 エンジニアの諫早俊樹氏は、「ZEBの基礎的な話だが、ビルのエネルギー使用量を絞るだけでは、夏は暑く、冬は寒くなり、利用者が快適に過ごせない実用性の低い建物になる。そのため、快適性を確保した上で、ZEBに向けて設備機器容量をダウンさせるために、まずは建物自体の負荷を抑制するような建築的な工夫が必要だ」と語った上で、その工夫について解説した。
「ZEB関連技術実証棟は、ピーク時の日射負荷が大きい東西立面は面積を狭め、開口部を極力小さくした作りとなっている。反面で、南北面は広い立面とし、日射が強い南側では、水平庇を設け、影響を最小化している。加えて、日射負荷による影響が少ない北面は、窓や吹き抜けを配置することにより、明るさを確保した快適なスペースとしている。また、窓にはLow-Eガラスを採用することで、遮熱性と断熱性を高めている。その他、部屋の用途や空間ごとに、設計温度条件の設定を改めて検討し、建物内でも空調の強弱をつけた計画とした。特に吹き抜けの大空間を含めた共用部については、エネルギー消費を抑える目的から、緩やかな空調空間として位置付けている。空間の中であえて幅のある温熱環境をつくり、利用者が“場所の選択”により、好みの温熱環境を選べるようにしている」(諫早氏)。
ZEB関連技術実証棟は、1階に食堂、2階〜4階には、それぞれ3室ずつ実証に取り組むオフィスを設けている。三菱地所設計 機械設備設計部 ユニットリーダーの羽鳥大輔氏は、「食堂は、敷地全体の社員が使用することを前提としているため、通常の6000平方メートルの建築物が有する食堂より大きく、ZEBの観点で見れば、厳しい施設だ。だが、食堂としての機能はもちろんワークプレイスとしても利用可能なスペースとすることで、単純な省エネ性の追求だけではなく、従業員の働きやすさやコミュニケーションの活性化にも配慮した計画としている」(羽鳥氏)。
その上で、食堂の厨房の省エネ化については、「三菱電機の給湯器“エコキュート”など高効率な機器を導入し、エネルギー使用量を縮減した。現在は、提供する厨房の換気フードなどを最適化し、換気量を抑えられるかを検討している」。
自然エネルギーのパッシブ利用として、外気を効率良く取り込めるのもZEB関連技術実証棟の特徴だという。夏季の夜間や中間期において、室内よりも屋外の方が温湿度条件が優れている場合には、換気窓から自然風を取り込むことで、冷房負荷の低減を図る仕組みとなっている。
屋内北面の大規模な吹き抜け空間は、上部の熱だまりを用いて、重力換気を積極的に推進するシステムをプランニング。
さらに、中間期における敷地の気象データの分析から東南東の風が強いことが分かったため、風を取り入れやすいように、南側に外気の取り入れ口を設けている。
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