5G×AIでインフラ老朽化問題を解決 NTTドコモが示す現場DXの実装モデル:メンテナンス・レジリエンスTOKYO2025(3/3 ページ)
NTTドコモビジネスとNTTドコモソリューションズは、「メンテナンス・レジリエンスTOKYO2025」で、5GやAI、ドローンなどを活用して、現場の省人化や効率化を支える最新技術を多数紹介した。その中から、遠隔作業支援、水位監視、橋梁診断AIを取り上げ、現場DXの実装事例を紹介する。
AIが監視カメラ映像から河川の水位を予測
河川水位監視/予測サービスは、画像を分割して認識する“セグメンテーションAI”を活用し、監視カメラの映像から水位を推定するソリューションだ。物理的な水位計は不要で、設定水位を超えると自動的に管理者へ通知する。
近年、自然災害の激甚化により、毎年のように河川氾濫が発生し、人命が失われている。各自治体では堤防や調節池、貯留施設、排水施設などの整備が進められているものの、対応が追いついていない。こうした現状に対して現場負担を軽減し、災害対応の即応性を高めるために開発した。
映像解析は、NTTドコモビジネスが提供する映像エッジAIプラットフォーム「EDGEMATRIX(エッジマトリクス)」で行う。カメラと共に設置した「Edge AI Box」内で映像を処理し、必要なデータのみをリアルタイムでクラウドに伝送する。
クラウド側では、NTTドコモソリューションズの社会インフラメンテナンス総合支援ソリューション「SmartMainTech(スマートメインテック)」がデータを受け取り、管理画面に河川やため池の画像と、水位の時系列データを可視化。管理者は現場の状況が一目で分かり、蓄積データを活用すれば河川ごとの水位予測AIモデルの構築にもつなげられる。
河川は規模が小さいほど氾濫までの時間が短い。本ソリューションなら最短5分間隔で6時間先まで予測可能で、地域住民の早期避難につなげられる。ブース担当者は「自治体の防災課などで避難勧告との判断につなげてもらえれば」と期待する。
生成AIで診断調書の作成を自動化、均質化と技術継承にも貢献
「橋梁(きょうりょう)診断AI」は、橋梁の点検データや診断要領、熟練診断員のノウハウなどを基に、生成AIが健全性や所見などをまとめた診断調書の素案を自動作成し、診断業務をサポートするサービスだ。
従来は、診断員がイチから調書を作成しており、多大な負担となっていた。さらに、国が2025年度から新しい調書様式を導入したことで、その様式に合わせた対応作業が新たな負担増にもなった。橋梁診断AIを活用すれば、診断調書の作成作業を効率化する。AIが作業員や管理者による診断結果のばらつきを抑えることで、修繕管理コストの最適化にも寄与する。熟練技術がなくても一定水準の診断が可能となり、人材不足や技術継承の課題解決にも貢献する。
橋梁診断AIの導入効果は、NTTドコモソリューションズ、長崎大学、溝田設計事務所、長崎県建設技術研究センターによる産官学連携の実証で証明されている。2025年4〜5月に長崎県内の13橋を対象とした実証では、1橋あたりの診断作業時間が57%削減。ノウハウの継承や技術者育成の観点からも有効性を確認し、診断結果の均質化で補修判断の適正化や修繕コスト削減にもつながる可能性も評価された。
担当者は「将来はメンテナンスサイクル全体をカバーし、効率的な橋梁維持管理の実現を目指す。参照している要領などを変えることで、橋梁以外のインフラにも展開を見込む。現在は実証実験を終えたところで、今後はさらに精度を高め、実用化を進めていきたい」との展望を語った。
今回紹介した3つのソリューションはいずれも、現場課題の解決に直結する実践的な技術として開発した。NTTドコモビジネスとNTTドコモソリューションズは、5G通信とAIを基盤に、社会インフラの維持管理で安全性と生産性の両立を実現を見据えている。
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