間違いだらけの「日本のBIMの常識」Vol.1 そもそもBIMとは何か?【日本列島BIM改革論:Reboot】:日本列島BIM改革論〜建設業界の「危機構造」脱却へのシナリオ(10)(4/4 ページ)
日本では誤解された「BIMの解釈」がまん延しており、それが日本と海外の差を生んでいる。このままでは日本のBIMは正しく成長できず、迷走する可能性がある。正しいBIMの常識とは何か、いくつかの用語について正しく理解しておこう。
日本と海外のBIMの常識が違う理由
なぜこのように、日本と海外でBIMについての解釈が異なるのだろうか?その理由をBIMの発展してきた仮定から考察してみる。
1980年後半から2000年にかけて、建物のデジタルモデルについての試みはあったが、2002年にAutodeskがRevitを発売した年のホワイトペーパーで、Building Information Modelingという言葉を使用し、それを3次元形状に属性情報持った情報のプラットフォームと説明したことが起源とされている。
2011年には英国政府が、Government Construction Strategyを発表し、それまで「3次元モデル」とか、「干渉チェック」などの技術的機能が注目されていたBIMが、「情報の正確性と信頼性」「意思決定の基盤」「ライフサイクルでの再利用性」といった建物のライフサイクル全体での情報マネジメントへと大きく方向転換した。後にPAS 1192シリーズへ反映され、そして国際規格のISO 19650の規格制定につながっている。
日本のBIMの常識は、英国のように解釈を方向転換することなく、属性を持った3次元モデルを有効活用するというBIMが誕生した時点の定義にとどまっている。これが、海外や国際規格とのギャップを産んだ原因だろう。
日本のBIMの常識を変えるには?
このように発展してきたBIMの概念に対し、日本では実務適用のための調査や研究も遅れている。国際規格のISO 19650が日本の商習慣に合わないとか、使われている用語が馴染まないなどと言う前に、どうすれば日本に合った活用ができるのか、学術レベルでの研究が求められる。
英国では、英国政府の目標を実現するためには、単にBIMソフトウェアの普及では到達できないことに気付き、20年以上情報マネジメントに取り組み、その集大成としてISO 19650を発行した。多くの国や地域の組織が国際規格(例:ISO 19650シリーズ)を参照し、国境や組織の垣根を越えてBIMに関する情報を共通枠組みで管理/交換しようとしている。相互運用性の検証と普及を進めることで、生産性/品質/リスク管理の改善が期待される。日本も国際整合を欠いて独自仕様に偏重する「ガラパゴス化」がさらに進まぬように、早急に本格的な取り組みを強化すべきだ。
今回は、BIMについての話だけで終わってしまったが、次回は日本と海外の常識の違いとして、CDEやBEP、EIRなどについて考察したい。こうした事項についても、間違っている日本の常識と海外の常識を正しく認識し、その上で自らがどうあるべきかを考えてほしい。
著者Profile
伊藤 久晴/Hisaharu Ito
BIMプロセスイノベーション 代表。前職の大和ハウス工業で、BIMの啓発・移行を進め、2021年2月にISO 19650の認証を取得した。2021年3月に同社を退職し、BIMプロセスイノベーションを設立。BIMによるプロセス改革を目指して、BIMについてのコンサル業務を行っている。また、2021年5月からBSIの認定講師として、ISO 19650の教育にも携わる。
近著に「Autodesk Revit公式トレーニングガイド」(2014/日経BP)、「Autodesk Revit公式トレーニングガイド第2版」(共著、2021/日経BP)。
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