世界の建設業界を変えてゆく、BIM国際規格「ISO 19650」【日本列島BIM改革論:第9回】: 日本列島BIM改革論〜建設業界の「危機構造」脱却へのシナリオ〜(9)(1/3 ページ)
2018年に国際規格「ISO 19650-1,-2」が発行されてから、徐々に各国にも取得の動きが広まってきている。世界の建設業が同じ標準のもとで、つながろうとしていることの表れではないだろうか。今回は、国際規格としてのISO 19650の意義や取り入れることのメリットから、世界各国のBIMガイドラインにどのように影響を与えているかを解説する。
ISOのマネジメントシステム規格
ISOは、「International Organization for Standardization(国際標準化機構)」の略称。これだとIOSになるが、ISOとしたのは、IOSでは呼びにくいということもあったようだが、ギリシャ語のISOSから来ているとも言われている。ISOSは、「等しいこと」「一様性」「均等」「平等」などを意味する言葉だ。つまり、企業や国を越えた共通の規格を作り、産業の発展を図るための活動とも捉えられる。
ISOには、「製品規格」と「マネジメント規格」の2種類が存在し、製品規格の身近なところでは、非常口のマークやねじの寸法、キャッシュカードなどのカードのサイズなどで目にすることがあるだろう。マネジメント規格は、会社や組織を運営するための規定や手順、そしてこれらを実際に運用するための責任/権限の体系を指す。主なものに、「ISO 9001:品質マネジメントシステム」「ISO 14001:環境マネジメントシステム」「ISO 27001:情報セキュリティマネジメントシステム」などがある。
マネジメントシステム規格は、会社や団体の理念実現や経営目標の達成、問題解決のために、組織を管理する仕組みを標準化し、文章にまとめ、認証のための要求事項を定め、認証を行う。
★連載バックナンバー:
『日本列島BIM改革論〜建設業界の「危機構造」脱却へのシナリオ〜』
日本の建設業界が、現状の「危機構造」を認識し、そこをどう乗り越えるのかという議論を始めなければならない。本連載では、伊藤久晴氏がその建設業界の「危機構造」脱却へのシナリオを描いてゆく。
マネジメントシステムのPDCAサイクル
ISOのマネジメントシステムは、図2のようにPDCAのサイクルで構成されている。最初に目標の設定として、要求事項を整理し、それを実現するための仕組みを検討する。次に、目標を達成するための「計画(Plan)」を立て、その計画に従い「実施(Do)」する。実施した結果が目標を達成したかどうかを検証し、必要に応じて実施内容を「チェックし(Check)」して、次回の「改善(Action)」にまでつなげる。PDCAは、業務改善、品質改善、業務管理のための“フレームワーク”として広く知られている。
BIMで協働生産するための情報マネジメント規格「ISO 19650」
ISO 19650のタイトルは、「ビルディング情報モデリング(BIM)を含む建築及び士木工事に関する情報の統合及びデジタル化〜ビルディング情報モデリングを使用する情報マネジメント」であり、「建設業界の情報の統合及びデジタル化のためにBIMを使用する情報マネジメント」とも言い換えられる。
ISO 19650-1の原則と概要では、BIMを使用した情報マネジメントの基本的な考え方を表している。ISO 19650-2は、設計・施工のプロセスに対し、要求事項を規定している認証規格。そのため、ISO 19650-1,-2は、BIMという曖昧な概念を、国際的に共通化し、企業や国を越えても協力して仕事ができるフレームワークを示しているといえる。
例えば、「BIMとは何か」という基本的な概念にしても、各国で考え方が異なっていたら、そもそも何をやっているのか分からない。情報コンテナの考え方や「共通データ環境(CDE)」の利用方法についても、共通化しておかねば、企業や国を越えた情報の協働生産ができない。逆に共通化されれば、海外企業と仕事を行う際も、BIMに対する概念や考え方が同じなため、情報の協働生産が可能になり、情報の連携もできるようになる。ISO 19650は、国際規格になった2018年以降、着実に海外のBIMガイドラインなどに採用され、各国で徐々に浸透しつつある。
規格自体には明確な記載はないが、ISO 19650も、設計・施工・運用でPDCAの考え方に沿って規格が作られていると考えている。多少強引だが、ISO 19650-2(設計施工の情報マネジメント)をPDCAで書いてみた(図3)。
ここで最も重要なことは、計画(Plan)の部分で、要求事項に従ってBIM実行計画などを作成するプロセスにある。情報の協働生産(Do)の部分で、BIMの実行計画通りに、CDEのワークフローを使って、情報モデルを作成する部分も大切だ。単に、RevitなどのBIMソフトウェアを使いさえすれば、生産性向上などの大きなメリットが勝手に転がり込んでくるものではなく、発注者の要求事項に基づく情報マネジメントの中で、どのような組織や役割で、BIMソフトウェアやクラウドを使いこなすかを計画し、それを実行することが肝要となる。つまり、設計・施工の情報マネジメントは、計画を立案し、その通りに実施することで、あらかじめ計画されていた成果を手に入れるという実は単純で当たり前のことなのだ。
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