脱炭素と自然再興を実現へ 事業成長と社会貢献両立を目指す、大和ハウスの挑戦:カーボンニュートラル(3/3 ページ)
大和ハウス工業は事業成長と社会貢献の両立を目指し、カーボンニュートラルや生物多様性に関する活動を推進している。2050年カーボンニュートラル実現に向けてZEH/ZEB率向上や太陽光パネル設置を推進する一方、課題となる資材製造段階の脱炭素化に向け、サプライヤーとの協働にも取り組む。生物多様性保全では、森林破壊ゼロを目指す活動や在来種植栽などを通じてネーチャーポジティブ実現を目指す。
自然再興目指し「森林破壊ゼロ」「生物多様性損失ゼロ」
小山氏が「カーボンニュートラルに次いで取り組んでいくテーマと認識している」と語るのが、生物多様性の取り組みだ。
WWFの調査によると、1970年から2020年の50年間で生態系の豊かさを示す「生きている地球指数」は73%減少。要因として、開発や農業などに海や陸が利用/改変されていること、動植物の直接採取、気候変動や環境汚染、外来種の侵入などが指摘されている。
日本は気候や地形の特性から固有種が多く生息している一方、破壊の脅威にさらされているとして、世界36地域の「生物多様性ホットスポット」の1つに選定されている。環境省の調べによると、山に住む鳥の個体数は現状維持が続いているものの、里山や農地の鳥は減少しており、身近なチョウの33%、鳥類の15%が急速に減少していることが明らかになっている。生物多様性の問題は地球規模の課題ではあるが、気候変動とは異なり、具体的な対策は地域によって異なるのが特徴だ。
生物多様性についてはグローバル、国内でさまざまな目標が定められている。2022年に開催された生物多様性条約締結国会議(COP15)では、「昆明・モントリオール生物多様性枠組」が採択され、2030年に生物多様性の損失を止め、さらに反転させる「ネイチャーポジティブ(自然再興)」を掲げた。また、日本では2023年に「生物多様性国家戦略」が公表。その実現に向けたロードマップとして、2024年3月に「ネイチャーポジティブ経済移行戦略」が発表された。
大和ハウス工業の生物多様性の取り組みは、2005年の創業50周年に策定した環境ビジョンの重点テーマの1つに「自然環境との調和」を掲げたことからスタートした。2010年には住宅メーカーとして初めて「生物多様性宣言」を公表。2016年に策定した「環境長期ビジョン」では、大和ハウス工業が目指す「7つのゼロ」のうち2つに、ネーチャーポジティブに関連する「森林破壊ゼロ」「生物多様性損失ゼロ」を掲げた。
森林破壊ゼロは2055年の実現に向けて、まずは2030年に、住宅/建築関連事業の木材調達に伴う森林破壊ゼロの実現を目指している。森林破壊リスクが拭いきれないCランク木材の調達を全廃し、サプライヤーにも森林破壊ゼロ方針の設定を呼び掛けていく。森林破壊ゼロに取り組むことを宣言するメンバーシップ制度も創設し、森林破壊ゼロ宣言に加え、合法性や持続可能性、トレーサビリティーの確保、人権や労働者の権利、安全への配慮など7項目を求めている。現在は継続的な木材調達先の72%に当たる全81社が参加している。
生物多様性損失ゼロでは、2055年をゴールに事業活動とまちづくりにおける生物多様性の「ノーネットロス」を目指す。まずは2030年に生態系に配慮した緑被面積を200万平米まで増やす目標を掲げて取り組んでいる。
在来種50%以上の緑化を全事業で推進
小山氏は「住宅建設や不動産業は、自然を改変する負の側面がある一方、都市の中に新たな自然を作り出し、事業を通じて自然を再生できるまれな存在だと考えている」と説明。
緑化コンセプトとして「みどりをつなごう!」を掲げ、地域の自然に配慮した在来種50%以上の緑化を全事業で推進している。この取り組みで、2022〜2023年にかけて、累計46.4万平方メートルの緑被面積が増加した。
大和ハウス工業は、在来種緑化に取り組む意義を明確化するため、スタートアップ企業と共同で、効果の定量評価も実施。その結果、在来種を50%以上植えると、在来種がない場合と比較して生き物の暮らしやすさは3倍、生き物が増える効果は5倍になることが確認できた。
さらに、積水ハウス、旭化成ホームズと住宅3社共同で、各社が異なったコンセプト推進する在来種の都市緑化によるネーチャーポジティブの実効性とシナジーについて実証。種ごとの個体数を3社合計すると、首都圏だけで年間約350種、43万本に上り、最も種数の多かった企業よりも約10パーセント多いことが分かった。「3社がそれぞれ異なる樹種を植えたことで、都市の生物多様性の豊かさが向上したことが分かった。今後は在来種に注目した植栽提案を住宅/不動産業界全体で推進し、相乗効果の拡大を図っていきたい」(小山氏)。
住宅の事例では、愛知県豊川市の分譲地「セキュレアガーデン豊川八幡駅南」において、「まちづくりガイドライン」を定め、分譲地全体の緑量や在来種を中心とした植栽をルール化した。また、水害対策に主眼を置いたグリーンインフラの考え方を取り入れ、舗装面積を減らし、アプローチや駐車場の轍部以外は、砂利敷きや芝生にし、雨水を地中に還元する仕組みとした。水路境界のかさ上げも実施している。この取り組みによって、2023年6月の台風で豊川市内は水害に見舞われたものの、分譲地は水害免れることができたという。
建築の事例では、2022年12月に竣工した神奈川県川崎市の住友電設 川崎テクニカルセンターを紹介した。S造4階建て、延べ床面積は5207平方メートル。1〜2階の研修エリアはNearly ZEB(一次エネルギー削減率:創エネを含め76%削減)、3回の管理者住戸は『ZEH』(同138%)を取得している。建物の屋根上には太陽光発電設備(150キロワット)を搭載。BCP対策としてEV(電気自動車)を利用したV2Xを導入し、16時間自立補給できる。
中高木における在来種の割合は約6割を占める。在来種を植えたことで、近隣の多摩川に生息する鳥が飛来することも期待しているという。
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