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エンゲージメントを経営の「アクセル」と「ブレーキ」の判断軸に:エンゲージメント向上のポイント(3)「従業員エンゲージメント」を高め、建設2024年問題を乗り越える(5)(1/2 ページ)

本連載では、リンクアンドモチベーション 組織人事コンサルタントの山本健太氏が、建設2024年問題の解決策として、会社と従業員の間をつなぐ「エンゲージメント」とその向上策について解説していく。今回はエンゲージメントを高めながら、いかに事業成果につなげるか、その具体的なポイントについて語る。

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 これまでの連載でお伝えした通り、建設会社が「2024年問題」と呼ばれる残業上限規制の適用開始を乗り越え、持続的な成長を実現できるかどうかは、従業員エンゲージメントの向上にかかっていると言っても過言ではありません。このような認識は広がりつつあり、建設業でもエンゲージメント向上に取り組む企業が増えています。

 今回は、「エンゲージメントを高めながら、いかに事業成果につなげるか」について、具体的なポイントをお伝えします。

いまだ4分の3の企業が2024年問題に「未対応」

 クラフトバンク総研が2024年7〜8月にかけて実施した「建設業の2024年問題と人手不足に関する動向調査」によると、2024年4月から始まった時間外労働の上限規制の厳格化に対して、74%の建設工事企業が「未対策」と回答しています。1年前の調査から9ポイントの改善にとどまっており、依然として多くの企業が対策を講じていない状況です。

建設業の2024年問題に関する動向調査(2024年版)
建設業の2024年問題に関する動向調査(2024年版)  出典:クラフトバンクプレスリリース

 また、69%の建設工事会社が「人手不足で仕事を断ることがある」と回答。従業員数よる差異はほとんど見られず、会社規模を問わず人手不足が広がっていることが分かりました。さらに人手不足の課題として、新卒/中途の採用の難しさよりも、「育成が追い付いていない」「離職が多い」といった内部要因がやや上回る結果となりました。

「エンゲージメントを高めること」が目的化していないか?

 前述した通り、2024年問題に対応するため、エンゲージメント向上に取り組む建設会社は増えています。エンゲージメントを高めるためには、自社の課題に即した施策を継続的に実行することが求められます。

 このような取り組みを進める中で、ある程度エンゲージメントが高くなった企業が陥りがちなのが、エンゲージメントを高めること自体が「目的化」することです。

 当社の研究では、エンゲージメントの向上が「営業利益率」や「労働生産性」にプラスの影響を与え、離職率の低下に寄与することが明らかになっています。しかし、エンゲージメントを高めることは、手段であって目的ではありません。エンゲージメントが向上しても、その状態の維持が目的となり、新規事業への挑戦や目標へのコミットメントを期待しないようでは本末転倒になってしまいます。従業員の成長の機会が失われたり、イノベーションが生まれにくくなったりするなど、事業成果にマイナスの影響が生じることにもつながりかねません。

 つまり、エンゲージメントを高めることだけに注力しすぎるとかえって逆効果となることもあるのです。

エンゲージメントの状態に合わせてアクセルとブレーキを踏み換える

 では、エンゲージメントを高めつつ、事業成果につなげるためにはどのようなアプローチが必要なのでしょうか。ここで押さえておきたい考え方が、エンゲージメントを企業経営における「アクセル」と「ブレーキ」の判断軸として活用することです。

 エンゲージメントが高い状態にあるときは、多少負荷をかけても従業員は前向きに受け止め、成果創出に向けて走り出してくれるでしょう。経営陣は、高い売上目標を掲げたり、新規事業への挑戦を促したりと、強く「アクセル」を踏むことができます。

 一方で、エンゲージメントが低い状態で高い目標を掲げたり、新規事業に乗り出したりすると、従業員から「会社は数字しか見ていないのか」といった不満や、「自分たちは不要なのだろうか?」といった不安が生じるリスクがあります。このような場合、まずは丁寧なコミュニケーションを図り、経営と現場が対話をする機会を設けるなど、一時的に「ブレーキ」を踏んで組織状態を立て直すことが先決です。

企業経営において従業員エンゲージメントは「アクセル」と「ブレーキ」の判断軸となる
企業経営において従業員エンゲージメントは「アクセル」と「ブレーキ」の判断軸となる  提供:リンクアンドモチベーション

 エンゲージメントは、事業環境の変化、顧客との関係性、社内の体制変更、従業員のコンディションなど、さまざまな要因によって上下するものです。常に現在のエンゲージメント状態を見極め、アクセルとブレーキのバランスを意識しながら柔軟に施策を講じていくことが重要です。

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