BIMで未来を切り拓いた地方ゼネコン 盛岡の「タカヤ」が描く、次世代の建設プロセスとキャリアビジョン:建設産業構造の大転換と現場BIM〜脇役たちからの挑戦状〜(9)(4/4 ページ)
筆者は第6回「現場BIMの活用例 Vol.2」で、「ゼネコンはフロントローディングで、BIMパラメーター情報を登録し、専門工事会社と連携する『データ主導型のワークフロー』を構築するべきではないか」と提言した。この視点は、特に地方ゼネコンにおいて、生産性向上と技術革新の鍵となるだろう。今回は、具体的な事例として、岩手県盛岡市のタカヤによるBIM活用を紹介する。その挑戦は、地方ゼネコンのBIM活用の可能性と、建設プロセス変革への道筋を示している。
今後の展望:デジタルファブリケーションと環境配慮
産業廃棄物削減にも注力しているタカヤでは、BIMデータを活用した環境負荷低減も検討している。細屋氏は「現場では資材の梱包材削減に取り組んでおり、部材のプレカットによる建設廃材の低減やコンクリート数量の最適化による資材ロスの抑制なども視野に入れている。BIMデータを利用すると各種数量の精度も高く、非常に効率的だ」と解説する。
若手技術者の育成とデジタル化への対応
最近の新卒者は大学でBIMに触れる機会も増えており、むしろCADよりもBIMの方が自然に受け入れられている傾向がある。注目すべきは若手技術者の意識の変化だ。「最近の新卒者は、むしろBIMの方がなじみやすい。3Dの空間把握が直感的で、建物の構造や設備との関係性も理解しやすいようだ」(BIM推進チーム)。逆にベテラン社員のBIM活用については、まだ課題も残る。
エピローグ:地方ゼネコンの挑戦
建設業界全体が人材不足に直面する中、タカヤのBIM戦略は一つの解決策を示している。デジタル技術の活用により、若手技術者の育成を効果的に進めながら、生産性の向上も図る。その姿勢は、地方ゼネコンの新しいモデルケースとなり得るだろう。
「建設業界も他の産業と同様に、デジタル化は避けられない。むしろ、そこに新しい可能性がある」という細屋氏の言葉には、建設業の未来を切り拓こうとする強い意志が感じられる。
筆者は施工段階でのBIMデータを利用した効率化を目指し、またMFToolsの開発者として、多くのゼネコンのBIM活用を支援してきた。冒頭で述べたように、建設業界におけるデジタル変革は、専門工事会社とのデータ連携による「データ主導型のワークフロー」の構築がポイントとなる。建物の企画・設計から施工、そして維持管理に至るまで、BIMデータを一気通貫で活用することで、建設生産プロセス全体の効率化と高度化が実現できる。
その中で重要なのは、ゼネコンと専門工事会社との連携だ。それぞれの専門工事会社が持つ製作・施工のノウハウをBIMデータと結び付けることで、より効率的で品質の高い建設プロセスが実現する。また、建物完成後の維持管理でも、正確なBIMデータの存在は、より効率的な保守や改修計画の立案を実現する。
タカヤの取り組みは、地方ゼネコンでもそれが十分に達成可能なことを証明している。設計段階からのBIM活用、施工段階への展開、さらには維持管理を見据えたデータ活用まで建設プロセス全体を見据えたデジタル変革は、もはや大手ゼネコンだけのものではない。むしろ地方ゼネコンこそ、その機動力と柔軟性を生かし、建設業界の未来を切り拓いていけるのではないだろうか。
著者Profile
山崎 芳治/Yoshiharu Yamasaki
野原グループCDO(Chief Digitalization Officer/最高デジタル責任者)。20年超に及ぶ製造業その他の業界でのデジタル技術活用と事業転換の知見を生かし、現職では社内業務プロセスの抜本的改革、建設プロセス全体の生産性向上を目指すBIMサービス「BuildApp(ビルドアップ:BIM設計―製造―施工支援プラットフォーム)」を中心とした建設DX推進事業を統括する。
コーポレートミッション「建設業界のアップデート」の実現に向け、業界関係者をつなぐハブ機能を担いサプライチェーン変革に挑む。
著者Profile
守屋 正規/Masanori Moriya
「建設デジタル、マジで、やる。」を掲げるM&F tecnica代表取締役。建築総合アウトソーシング事業(設計図、施工図、仮設図、人材派遣、各種申請など)を展開し、RevitによるBIMプレジェクトは280件を超える。2023年6月には、ISO 19650に基づく「BIM BSI Kitemark」認証を取得した。
中堅ゼネコンで主に都内で現場監督を務めた経験から、施工図製作に精通し(22年超、現在も継続中)、BIM関連講師として数々の施工BIMセミナーにも登壇(大塚商会×Autodesk主催など)。また、北海道大学大学院ではBIM教育にも携わる。
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