検索
連載

BIMが一過性のブームで終わらないために 空虚化する“フロントローディング”の根本原因 【現場BIM第8回】建設産業構造の大転換と現場BIM〜脇役たちからの挑戦状〜(8)(1/3 ページ)

2009年の“BIM元年”から15年が経過し、BIMは確実に浸透してきているが、各社で「BIM疲れ」が出てはいないだろうか。そこで今回は、日本のBIMの現在地を「BIM活用の本当の受益者は誰か」という基本的な問いから再確認してみたい。

Share
Tweet
LINE
Hatena

BIM進捗の現在地

 日本の“BIM元年”と呼ばれた2009年から15年が経つ。ここ数年は大手に止まらず広くゼネコンの取り組みが活発化しており、その中で私たちも多様なリクエストに対し、実業務や実証事業として数多くのプロジェクトをご一緒させていただいている。

 十年ひと昔というが、そこからすると既に2週目も半ばを過ぎ、この先を占うにはそれなりの成果が気になるところで、少し現在地を確認しておく必要があるように思えるため、今回はこれまでの道のりを振り返ってみたい。

 確かに今日までにBIMの認知は広まり、ムーブメントにもなり、そのテクノロジーは急速に進歩し、建設プロセスの情報断絶を根本原因とする業界全体の生産性向上という課題解決の実現性の一端が見えてきたことは事実だろう。一方でその成果は(工種、プロセス、プレイヤーなどの観点で)甚だ部分的で、建設プロセス全体に及ぼす影響としてはまだ限定的なこともまた事実だ。建設プロセス全体に、全関係者につなげていく/続けていくことが肝要なことは言うに及ばない。

連載バックナンバー:

建設産業構造の大転換と現場BIM〜脇役たちからの挑戦状〜

本連載では、野原グループの山崎芳治氏とM&F tecnicaの守屋正規氏が共著で、BIMを中心とした建設産業のトランスフォーメーションについて提言していく。設計BIMについては語られることも多いため、本連載では施工現場や建材の製造工程などを含めたサプライチェーンまで視野を広げて筆を進める。

改革スピードが停滞してしまう「BIM疲れ」

 さて、建設産業で生産性向上の戦略を進めていくうえで、「BIM疲れ」によって改革スピードが減速もしくは後退するかもしれない“ホラーストーリー”も考慮に入れておくべきだ。実際に積極姿勢から様子見モードにシフトダウンした中堅ゼネコンもおり、先陣を切っているゼネコンでさえ試行錯誤の途中にあり、サブコンや専門工事業者は体力のある一部企業が何とか喰らい付いている状況にある。

 私たちも含めてBIM普及に尽力している皆さまにこういう言い方をするのは気後れもするが、下記のようなBIM疲れを誘発する事象が目につくようになってきた(※危機感の表れとして断定的に表現しているが、もちろん全てのプレイヤーに当てはまるものではなく一般論、もしくは傾向としてみていただきたい)。

<BIM疲れと思われる事象>

 ・設計事務所、ゼネコン設計部門が後ろ向き

 ・設計BIM/施工BIMがつながらない、施工BIMをいきなり作る

 ・BIM設計標準を定め、全社に通知しているが現場が守らない/守れない

 ・プロジェクト進捗にBIM作業が追い付かない(BIM人材の数/習熟度が上がってこない)

 ・いまだに「後追いBIM」が主流

 ・設計変更や修正は結局CAD/図面で行いBIMが更新されない

 ・ゼネコンの現場所長が“ギリギリまで設計変更を受けるのが競争優位性”(BIM≒フロントローディングなのに、従来の慣習を引っ張ってギリギリでの設計変更を受け付けるのは根本的な矛盾がある)、一方で、“会社の方針だからBIMは頑張る”と語る(やれと言われているから、それに対しては真摯に向かい合う)

 ・ゼネコンからサブコンへのBIM対応依頼が粗っぽい、結局下階層はやらされ感/拒絶感が先行

 

BIM疲れが出ていませんか?
BIM疲れが出ていませんか? 出典:写真AC

 何事も構造改革の過程では、一部のリーダーが突っ走りほとんどの人が不満を持つのは世の常だが、その期間が長くなりすぎるとその反動が勝り改革がストップしてしまうことも多いため注意が必要だ。「BIM市場」はキャズム理論的にはまだ、「アーリーアダプター」域にも入っていないと考えられ、それが15年続いていると考えると、そろそろ制限時間に近づいていると考えるべきだろう。ただし、時間がかかりすぎるのも問題だが、対策を間違え安易で強引なBIM導入に傾くと現場にさらに混乱を与え、生産性向上どころか恒常的な生産性阻害要因にも成り得る。

 つまり、労働者不足が加速する現代では、建築現場が従来手法と安易で強引なBIM対応の2つに追われることになり、さらに2024年4月からの時間外労働時間の上限規制の適用により、従来のように残業で業務量をカバーすることもできず、後にも先にも活路がなくなり絶望となる。そろそろゼネコン主体で頑張るには、限界がきているのではないだろうか。

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

       | 次のページへ
ページトップに戻る