建設業の2024年問題、解決の鍵は「従業員エンゲージメント」向上にあり【新連載】:「従業員エンゲージメント」を高め、建設2024年問題を乗り越える(1)(1/2 ページ)
建設業では高齢化や労働人口の減少に伴う人材不足で長時間労働が常態化しており、いかに労働環境を是正するかが課題となっている。しかし、やり方を間違えてしまうと、本社と現場の間に大きな溝が生まれるリスクがある。本連載では、リンクアンドモチベーションの組織人事コンサルタント山本健太氏が、建設2024年問題の解決策として、会社と従業員の間をつなぐ「エンゲージメント」の関係性を明らかにしながら、エンゲージメント向上に向けた具体的なポイントを解説していく。
建設業は今、「2024年問題」の渦中にあります。働き方改革関連法に基づく時間外労働の上限規制が2024年4月から建設業にも適用され、労働力不足への対応や生産性の向上は喫緊の課題となっています。
日本建設業連合会が2023年11月に実施した調査によると、約67%の現場で月45時間/年360時間までという時間外労働の原則ルールを超過しており、約26%の現場では「36協定」の特別条項も守られていないことが明らかになりました。
上限規制の適用から半年がたとうとしていますが、現在も対応に苦慮している企業は多いようです。
本社と現場の「距離」が遠い建設業
対応が進まない要因の1つが、本社と現場との「距離」です。建設業では本社(経営)と現場間に物理的な距離があり、これが心理的、感情的な距離につながることも少なくありません。
建設現場の運営は原則として現場所長に任されています。所長によって組織の運営方針が変わり、離れた本社からは、各現場の具体的な状態や組織の雰囲気を把握しづらい場合もあります。
多くの建設会社では2024年問題に対応するため、本社が現場に「残業時間を減らすように」と声をかけていることでしょう。ですが、本社が現場の状況を把握しないまま指示を出しても「人が足りていないのに」「本社は現場のことを何も分かっていない」「本社の言うことなんて聞かなくていいよ」というように、心理的、感情的な距離が生じ、現場の不満や反発を招くだけで終わってしまいます。
2024年問題への対応における「失敗例」
2024年問題への対応が迫られているなかで、さまざまな施策を行うものの成果が伴わず、失敗に終わってしまうケースは少なくありません。いくつかの事例を紹介します。
【「ノー残業デー」が裏目に出る】
長時間労働を是正する手段として、建設業に限らず一般的なのが「ノー残業デー」の導入です。
ノー残業デーは、半ば強制的に残業時間を削減する取り組みですが、対策を講じないまま制限をかければ、業務に支障を来す可能性があります。工期が長引いたり、ミスを頻発したりするなどの弊害を生じやすくなり、結果的に、従業員が会社に隠れて残業せざるを得なかったり、「生産性を上げなければ」というプレッシャーで精神的に疲弊してしまったりすることにつながるのです。
さらに、本社の従業員がノー残業デーに定時退社をしていても、現場の従業員にはできないケースもあり、不公平感から本社と現場の間に確執が生まれる要因にもなり得ます。
【「DXツール」が定着しない】
B2Bプラットフォームを運営するインフォマートが2023年4月に行った調査※では、建設業は「6割を超える企業が手作業で請求書を転記している」という事実が判明しました。紙文化が根強く残り、生産性向上の妨げになっていることが伺えます。
近年は、DXツールを導入して業務効率化を図る企業も増えています。しかし、現場から「慣れているやり方のほうが良かった」「勝手にやり方を変えられても困る」などの不満が噴出し、結局DXツールが定着せず、紙文化に逆戻りしてしまうのはよくあるパターンです。多額のコストをかけて導入したツールが「宝の持ち腐れ」になり、利益を圧迫しているケースも少なくありません。
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