「有事への備え」――石油・LPガス備蓄の現状と水素等へのタンク転用:エネルギー管理(4/4 ページ)
電力インフラのレジリエンスを考える上で、災害時にはエネルギー供給の「最後の砦」と位置付けられている石油。昨今の不安定な国際情勢や脱炭素化の流れを受け、資源エネルギー庁では今後の石油備蓄の在り方についての検討を進めている。
既存設備の水素タンク等への転換
現在、国内の石油製品需要は年率約2%の減少傾向であり、今後も同じペースで減少が続くと仮定した場合、2015年比で2030年には約2割、2040年には約3割、需要が減少すると見込まれる。また、需要減退を踏まえ、石油精製業者による精製設備能力削減や製油所閉鎖の動きが続いており、設備の稼働率も減少傾向にある。
このような石油等の需要の減少に伴い、既存の国家石油備蓄基地や企業からの借り上げタンクに「空き」が生じることが想定されるため、これを水素等の脱炭素燃料の備蓄に有効活用することが検討されている。
対象となる水素系燃料・水素キャリアは、液化水素(LH2)、アンモニア(NH3)、メチルシクロヘキサン(MCH)である。JOGMEC(独立行政法人エネルギー・金属鉱物資源機構)では、水素キャリアごとの既存タンクへの適合可能性を検討したところ、アンモニアはLPガス低温タンク、MCHは浮屋根式原油タンクが適合している可能性が高いことが明らかとなった。
JOGMECではすでに、既存のLPガス低温タンクをアンモニア貯蔵に転用するための技術的な手引書を作成しており、海外から輸入される燃料アンモニアの受け入れ・貯蔵に関するFSを実施している。
また、2022年のJOGMEC法改正により、JOGMECは水素等の脱炭素燃料の製造・貯蔵に対する出資や債務保証も可能となっており、既存タンクの転用に向けた技術面・ファイナンス面での一貫した支援の実施が期待される。
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