「天神ビッグバン」にみる都市DXの可能性【後編】―「PLATEAU」のポテンシャルやゲーム×3D都市モデルのユースケース:都市DXフォーラム IN 九州(2/3 ページ)
本稿では、3D都市モデルをベースにした大規模都市開発でのDX活用をテーマとするフォーラム「都市DXフォーラム IN 九州」の各セッションを前後編で紹介する。後編では、国土交通省が公開した3D都市モデルのオープンデータ「Project PLATEAU」が他の3Dマップとどう違うのかやゲーム×3D都市モデルの活用例、街づくり協議会が試みた街活性化のDXについて紹介する。
ゲームと3D都市モデルの結び付ける「シリアスゲーム」
九州大学大学院 芸術工学研究院の松隈氏は、3DCGを専門に扱うメディア系の研究者として、近年は特に「ゲーム」をキーワードにさまざまな活動を展開している。「ゲームと3D都市モデルの結び付き」をテーマに、「シリアスゲーム」というゲームジャンルについて語った。
シリアスゲームは、教育や医療、環境などの分野に関わる「社会問題の解決」をキーワードにしたゲームを指し、松隈氏がフォーカスする医療分野であれば、リハビリやヘルスケアをゲーム要素に盛り込み、健康社会の実現に役立てるものだ。九大病院とのコラボレーションで、松隈氏らが作成した起立訓練支援ゲーム「起立くん」などを例にすれば、従来は半ば義務感で行われることが多かった起立訓練の「やりたい」気持ちを盛り上げていこうと企画した。松隈氏らは開発やその効果測定だけでなく、お年寄りがゲームをするための「場」作りまで行った。
続いて紹介したのは「バーチャル大橋キャンパス」の最新事例である。オープンキャンパスをオンラインで行うべく、九州大学の大橋キャンパスを3DCG化。現在は、3Dキャンパスモデルを生かして、幅広い分野の学生がコラボレーションして「オルタグ!」と名付けたゲームを作成している。オルタグ!は、キャンパスを舞台とする脱出ゲームに謎解き要素を加えたホラーゲーム風の謎解き&鬼ごっこゲームとなる予定だ。
また、提案したが採用されなかった企画「腸環境に基づくメタバース健康社会創出」のプロジェクトも披露した。腸内細菌と健康状態や疾患との関連研究が高まりをみせている背景から発案し、腸環境のデータをセンシングしてデータを取り出して、自分とそっくりのデジタルツインのアバターとリンクさせる。位置空間や仮想通貨も連動させ、アバターが働いたり遊んだりできるメタバースシティーを作り、バーチャルアバターを活動させる試みだ。
「コロナ禍にあって、バーチャル空間やメタバースの世界が一般化しつつある。さらに加速し、バーチャル環境がリアルな環境と等価になって交われば、この交わる部分をどうデザインしていくかが今後の課題となる」と松隈氏は語る。コミュニケーションも、実体と実体によるものから、「アバター同士」や「アバターと自分」による可能性も出てくるし、AIが一般化すれば自分の行動を全て蓄積したアバターが自動で生成され、勝手に行動し始めることもあり得る。「そのとき、どんな空間やインタフェースが必要なのか。どんなビジネスチャンスが出てくるのか」と松隈氏は期待を寄せる。
最後に、松隈氏は天神明治通りの3D都市モデルを活用したゲームを紹介。プレイヤーの走る動きと3D都市モデル内の巨人の動きが連動しているので、バーチャル都市空間を巨人視点で走っている感覚が味わえるという仕組みだ。
天神明治通り街づくり協議会(MDC)の街づくりとDX
天神明治通り街づくり協議会会長 田川真司氏は、天神明治通り街づくり協議会(以下、MDC)を解説。MDCは2008年6月、天神地区の再開発を推進する地権者の協議会として発足した。
対象エリアは天神明治通り地区の約17ヘクタールで約100棟の建物が存在する。2008年には、多くの建物が築40年を超えて更新時期を迎え、西方沖地震の影響も受け、耐震性も強化する必要が生じ、アジアの拠点となる都市づくりという大命題もあった。他方では建築基準法改正により、都心部の容積率が600〜800%となり、そのまま建て替えると街の規模としてはスカスカになるとの問題もあった。
こうした課題を官民一体で解決するため、MDCが設立された。福岡市も同時期に容積緩和制度を作るなどして協力を図り、2023年に協議会は15周年を迎えるが、地区計画(方針)として都市計画が決定済みの地区内では、建替えが始まった場所とまだ構想段階の場所が混在している。
MDC設立の翌2009年には、地区の将来像となるグランドデザインが定まり、前述の通り「アジアで最も創造的なビジネス街」とのコンセプトを打ち出し、官民が連携して「市民が誇り世界が称賛する持続可能なまち作り」を進めていくことになった。2011年には、「グランドデザインを実現するための手引書」を作成した。手引書は、街の将来像実現に向け、事業者個々の事業や整備地区/整備計画の策定に際し、配慮すべき内容をまとめたもので、街全体で低層階の賑(にぎ)わいを創出するため、「街の共用部」の形成を目指しているのがポイント。都市機能と空間整備の要素を包括した道路と建物の低層部分に、面的な広がりを持つ公共的な空間を「街の共用部」と定義し、その充実により、他にない天神のオリジナリティーを訴求するのが狙い。具体的な取り組みでは、1.沿道景観の創出、2.快適で高質な歩行者空間の整備、3.都市機能の再構築、4.交通体系の再編、5.環境との共生、6.安全・安心の向上を挙げている。
最近のMDCの取り組みは、実証実験「天神明治通りテラス」と名付けた街中のオープンスペースの利活用事業がある。建物の建替えで生まれた公開空地を活用しようという狙いで、2022年11月に第1弾、同年12月に第2弾を実施し、ともに大きな話題を呼んだ。第1弾では空地に電源やWi-Fiなどのワーク環境を整備し、マルシェやキッチンカーも出店した。第2弾は、九州大学芸術工学研究院との協働で実施し、アート展示やAIコンテンツ導入を行った。
着々と進むMDCの取り組みだが、DX活用に関しては、取り組んではいるものの「まだまだ遅れている」と田川氏は苦言を呈す。活用例は、天神交差点などランドマークと成り得るエリア内の主要交差点のデザインをVRで検証した例やAIカメラを用いて人流の計測や分析を実施。田川氏は今後も、より積極的な展開を進めて行きたいとのことである。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.