栃木県宇都宮市で中層木造のオフィスビルが竣工、銀行業界で初の取り組み:プロジェクト
第一生命保険や東邦銀行、清水建設の3社は、栃木県宇都宮市で開発を進めていた中層木造のオフィスビル「TDテラス宇都宮」が2022年9月に竣工したことを公表した。第一生命保険と東邦銀行の調べによれば、中層木造オフィスの開発は、生命保険と銀行の業界で初の取り組みだという。また、今後、木質化が期待される都市型オフィスや商業施設に普及可能な計画として、林野庁補助事業「CLT活用建築物等実証事業」の採択を受けており、建築業界の技術革新と木材産業の活性化にも貢献する取り組みとなっている。
第一生命保険や東邦銀行、清水建設の3社は、栃木県宇都宮市で開発を進めていた中層木造のオフィスビル「TDテラス宇都宮」が2022年9月に竣工したことを同年10月7日に発表した。
構造体や内外装の仕上げ材にシミズハイウッドを活用
開発地は、第一生命旧栃木支社ビルと東邦銀行旧宇都宮支店ビルの敷地として、長年地域に根差し活用してきた土地で、今回の物件を通じて、地域経済に貢献していくことを目指す。
TDテラス宇都宮は、ハイブリッド木造(木造+鉄RC造)地上4階建てで、構造体や内外装の仕上げ材として、清水建設が開発した「シミズハイウッド※1」を採用している。
※1 シミズハイウッド:シミズハイウッドは、国土交通大臣の認定を取得した耐火集成材「スリム耐火ウッド」(耐火1時間)や直交集成材であるCLTパネルを型枠兼天井仕上として利用した「ハイウッドスラブ」で構成される。
シミズ ハイウッドの生産では、福島県内で大半の製材と加工を行い、その一部を東日本大震災復興に向けた「福島イノベーション・コースト構想※2」により整備された浪江町の福島高度集成材製造センターが担った。
※2 福島イノベーション・コースト構想:東日本大震災と原子力災害によって失われた福島県沿岸地域等の産業復興を目的とし、新たな産業基盤構築を目指す国家プロジェクト。
さらに、内外装の仕上材と型枠兼天井のCLT床版には「栃木県八溝山系のスギ」を導入し、構造部材である柱と梁(はり)には東邦銀行本店所在地である福島県南会津産の「カラマツ」を採用した。
内装に関して、大通り側に面した銀行店舗部分と執務室部分は木そのものに包まれた空間となっており、施設利用者に対して、リラックス効果や生産性を高めている。
なお、建物の四方向に設置された開口部により、光と風を採りこんだ木の空間や木質バルコニー、共用部では、施設利用者のQOL向上や健康増進を図りつつ、多様化するワークスタイルの適応やコミュニケーションの活性化を促す。
ちなみに、新型コロナウイルスなどの感染症対策として、エレベーターの非接触機能や抗菌・抗ウイルス機能を備えた建具のハンドルを採用した。
環境配慮について、構造体で306立方メートルの木材を利用し、約206トンの二酸化炭素固定効果を発揮している。合わせて、木造化により建物の軽量化を図ったことで、第一生命旧栃木支社ビルの地下躯体・杭を再活用することを実現し、施工時の二酸化炭素排出抑制と産業廃棄物を削減した。
運用時の電力としては、屋上に設けた太陽光発電設備やオフサイトコーポレートPPAサービス、FIT非化石証書などを活用し、運用時の電力全てを再生可能エネルギーとし、建物新築時からのオフサイトコーポレートPPAサービスを通じた再生可能エネルギー調達は国内初の取り組みだという。
また、クリーンエナジーコネクトが、埼玉県でTDテラス宇都宮専用の太陽光発電所(発電量は0.1MW相当)を配置し、小売電気事業者のスマートエコエナジー(清水建設の100%子会社)を介して、TDテラス宇都宮に追加性がある再生可能エネルギーを供給する仕組みを構築する。
TDテラス宇都宮の概要
TDテラス宇都宮は、ハイブリッド木造(木造+鉄RC造)地上4階建てで、延べ床面積は2447平方メートル。所在地は栃木県宇都宮市泉町1-29。主要用途は1階が銀行店舗で、2〜4階は事務所。設計は清水建設一級建築士事務所が担当し、施工は清水建設・渡辺建設共同企業体が担い、竣工は2022年9月。
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