「床スラブによる拘束効果を考慮した鉄骨梁横座屈補剛工法」の構造性能評価を取得、横補剛材を省略:新工法
横補剛省略工法研究会が開発した「床スラブによる拘束効果を考慮した鉄骨梁(はり)横座屈補剛工法」が構造性能評価を取得した。
奥村組を幹事とする総合建設会社10社(東急建設、青木あすなろ建設、淺沼組、北野建設、鴻池組、五洋建設、大日本土木、鉄建建設、長谷工コーポレーション)から成る「横補剛省略工法研究会」は、共同で「床スラブによる拘束効果を考慮した鉄骨梁(はり)横座屈補剛工法」を開発し、日本ERIの構造性能評価(ERI-K21008)を取得したと2022年8月末に公表した。
鉄骨梁とシアコネクターで連結された床スラブによる拘束効果を活用
性能評価を取得した工法は、H形断面の鉄骨梁とシアコネクターで連続的に結合されている床スラブによる拘束効果を利用して、鉄骨梁の横座屈補剛を行う。工法を採用することで、従来必要だった横補剛材の省略が可能になる。
今後は、各社において設計施工物件を主とした鉄骨造等の建物に本工法を適用することで、より合理的な設計・施工を目指す。
鉄骨造建物の大梁には主にH形鋼を用いるが、強軸方向には高耐力を発揮する一方、弱軸方向には弱いために、横座屈現象が生じやすいという弱点があった。そのため、横座屈を生じることなく大梁の耐力を十分に発揮するには、横補剛材を設ける設計(保有耐力横補剛)が一般的だが、鉄骨使用量が多く加工の手間が掛かってしまっていた。
床スラブによる鉄骨梁の横補剛効果は、既往の研究などで既に知られていたが、横補剛省略工法研究会では従来の知見に加えて、解析によって床スラブによる横補剛効果を検証して設計指針を整備し、構造性能評価の取得に至った。
床スラブによる拘束効果を考慮した鉄骨梁横座屈補剛工法では、鉄骨梁とシアコネクターで連結された床スラブによる拘束効果を考慮することで、これまで必要とした横補剛材を省けるうえに、許容曲げ応力度を大梁スパンに応じて低減する必要がなく、許容引張応力度と同等として扱うことが実現する。
さらに、保有耐力横補剛された梁として扱え、梁の終局曲げ強度を鉄骨梁の全塑性モーメントとすることができる。また、横補剛省略工法は部材削減につながるため、環境負荷低減にも貢献する技術と位置付けられている。
10社のうち東急建設は、「TQ-MIX(東急建設式柱RC梁S構法」を採用した物流施設や鉄骨造の事務所ビルに本技術の適用を検討。TQ-MIXや「SWITCH-sp(東急建設式複合梁)」といった独自の技術と連携が見込めるために、鉄骨造建物だけではなく混合構造建物の鉄骨梁にも適用することも視野に入れている。
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