AIモデルを活用しシールドマシンの掘進方向制御を支援する新システム、西松建設:施工
西松建設は、熟練オペレーターの操作技術などを数値化し、シールドマシンの掘進方向制御をAIモデルで支援するシステムを開発した。新システムは、導入することで、シールドマシンによる掘削精度の向上や施工の効率化を図れる。加えて、個人差があったオペレーターの操作技術を数値化し、システムのAIモデルに学習させるため、熟練者から細かい技術を学ばなくてもシールドマシンの掘進方向制御を行えるようになる。
西松建設は、熟練オペレーターの操作技術などを数値化し、シールドマシンの掘進方向制御をAIモデルで支援するシステムを開発し、国内のシールド工事現場に導入したことを2022年6月13日に発表した。
掘進管理データを基に直後の掘進方向を瞬時に推測
建設業界では、少子高齢化に伴う担い手不足や熟練技能者の減少と不足が懸念されており、品質と生産性の向上や技術伝承が求められている。
一方、シールド工事では、ダムや山岳トンネルの工事に比べ、既に高度な情報化と機械化が進められているが、シールドマシンの方位と傾斜角や土圧といったデータを見ながら、オペレーターがジャッキを選択し、ジャッキ速度や掘進パラメータを調整している。
しかし、オペレーションの技術は個人差があり暗黙知とされ、明確なルール定義が困難であったため、シールドマシン制御の全体的監視は情報化が遅れている状況だった。
そこで、西松建設は、独自開発のシステム「NS BRAINs※1」を活用し、シールドマシンや関連設備などから掘削に関連する各種施工とオペレーター操作のデータを集積し、そのデータをAIモデルに事前学習させるシステムを開発した。
※1 NS BRAINs:Nishimatsu Brain for Real Analysis Information Systemの略称で、シールド掘進中のさまざまな自動計測データを即時解析・活用して施工状況を客観的に解析・診断するシステム。
新システムは、シールドマシンの位置や姿勢(掘進方向と傾き)を計測・算出し、計画線形との偏差を正確に把握するだけでなく、オペレーターの運転操作や掘進パラメータの全体的監視といった方向制御に関わる作業をAIモデルでサポートする。
さらに、人工知能が熟練技能者の操作技術を約50リングの間で学習することで、各現場に最適化されたAIモデルを構築することが可能となり、作成したAIモデルは施工条件などが類似した現場を短期間で学習・適応。
システムの運転時には、生成したAIモデルが計画線形との偏差を最小とする最適な操作を探索し、検出した操作パターンをオペレーターに提示して、熟練技術者に頼らない操作を実現する他、AIモデルにより正確に掘進することができ、施工現場における掘進方向の修正が減少し品質向上につながる。
具体的には、シールドマシンより取得した膨大な時系列データを学習したAIモデルを活用し、シールドマシンの掘削状況を把握するとともに、掘進管理データを基に直後の掘進方向を瞬時に推測する。
加えて、ジャッキ選択(オン/オフ)やジャッキ圧力制御といった方向修正に対応する。また、システムのAIモデルは、シールド工事の各種計測情報を総合的に一括管理するNS-BRAINsのプラットフォームで動作するアプリとして、他のアプリ(線形管理や余掘り管理など)との連携にも応じる。
今後は、シールド工事現場で新システムを運用し、AIモデルに実証で掘進パラメータの変化を学習させながら、随時判断をさせて従来式との比較評価を行い、オペレーターによる操作比重を下げ、掘進方向制御の自動化を進めていく。
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