【第2回】高精度の衛星測位技術「RTK-GNSS」がもたらす、建設現場の自動化や省力化:建設現場を“可視化”する「センサー技術」の進化と建設テックへの道のり(2)(2/2 ページ)
本連載では、日立ソリューションズの建設ICTエバンジェリストが、建設業界でのセンサー技術の可能性について、各回で技術テーマを設定して、建設テック(ConTech)実現までの道のりを分かりやすく解説していきます。第2回は、高精度に位置情報を測位できる「GNSS」「RTK-GNSS」について、それぞれの測位の仕組みと建設現場での用途を紹介します。
「RTK-GNSS」の建設現場での活用例
また、みちびきの補正信号を使わなくても、高精度に測位する手法「Realtime Kinematic-GNSS(RTK-GNSS)」が存在します。RTK-GNSSは、GNSSアンテナで測位した位置情報に、地上に設置した固定局からの位置補正データを組み合わせて測位する手法で、数センチの誤差範囲で位置を特定することができます。
これまでRTK-GNSSの測位法は、高価な測量機器が必要でしたが、近年は対応したアンテナが低価格で手に入るようになりました。また、NTTドコモやソフトバンクといった大手通信キャリアがRTK-GNSSの補正信号を配信するサービスを開始しており、手軽に高精度位置測位が可能な条件がそろってきています。
こうした高精度な位置測位技術の活用先は、ズバリ「自動化」だと考えています。その1つは、“モノの制御”の自動化です。例えば、高精度に位置が測位できれば、走行中の車両の位置を把握して、遠隔で正確に制御できるようになります。
もう1つは“計測”の自動化です。今までは、距離や面積、体積などを専門の測量機器を用いて人手で測っていましたが、新しい測位技術によって精度の向上と測位作業の自動化が実現します。
さて、RTK-GNSSは建設現場ではどのように活用されているのでしょうか?最も活用が進んでいるのは、“重機の制御”でしょう。最近の重機にはRTK-GNSSアンテナを搭載するICT建機が市場に出始めており、その正確な位置情報を利用して、あらかじめ入力した設計図通りに施工するような動作制御を行うことができます。一例として、バックホウのショベルが図面に沿って施工するように、指定した範囲以上は自動で止まるプログラムが組み込まれています。
また、測量分野で活躍している“ドローン”にも、RTK-GNSSを備えた機体が登場しています。測量の現場では現在、ドローンで事前に上空から複数撮影した画像を用い、地上の3次元モデルを作成して測量するのが一般的になりつつあります。しかし、高精度な位置情報を持つ3次元モデルを作成するためには、地上に目印となる基準点(対空標識)を設置し、基準点の座標をあらかじめ測量して、その座標を手動入力する必要がありますが、これが一番手間が掛かります。でもRTK-GNSSを活用すれば、ドローンの撮影位置を高精度に求めることで、基準点の設置や測量を省くことができ、ドローン測量のさらなる効率化が見込めます。
その他、スマホにRTK-GNSS対応アンテナを接続し、高精度に位置情報を求めながら、対象物の動画を撮影し、動画から位置情報付き画像を切り出して、3次元の点群モデルを作成するというサービスも存在します。目的や手順行は、ドローン測量と似ていますが、撮影をスマホで行うことで、より手軽に3次元データを作成して測量することができます。
以上のように、高精度衛星測位は今ではかなり身近なものになってきています。そしてみちびきの補正信号を受信できるアンテナが普及価格帯へと下がり、スマートフォンにも標準搭載されるようになるとさらに利用用途が広がるでしょう。
次回は、今回ご紹介した衛星測位技術が利用できない“屋内”での位置測位技術についてご紹介していきます。それでは、次回またお会いしましょう。
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