これからのBCP対策の在り方、竹中工務店が提案する「有事と平時に対応する施設の“再構築”」:ファシリティマネジメント フォーラム 2021(4/5 ページ)
近年、国内で相次ぐ自然災害の甚大な被害を鑑みると、建物のBCP対策については現状を見つめ直し、将来の在り方を検討すべき時期に来ている。ファシリティマネジメント フォーラム 2021で講演した竹中工務店で事業リスクマネジメントグループ長を務める杉内章浩氏は、BCP/リスク対策の必要性は認識していても実施がなかなか進まない現況を踏まえ、多数の相談を受けている建設会社の立場から参考になる事例を交えつつ、とくにここ数年の懸案事項となっている感染症対策にもスポットを当て、問題解決の具体的な手法を提言した。
換気対策の(a)〜(f)段階的手法
3つ目の空気に対する換気対策では、各部屋の換気情報をしっかりと掴(つか)んでおくのが不可欠。その上で、改善が必要な際は、換気能力を増強したり、利用人数の制限も検討したりしなければならない。加えて、換気や運転状況をモニタリングできればより安心感が高まる。
換気の基本をおさらいすると、そもそも換気とは外気を取り入れて、室内空気を外に追い出すことで、空気中の汚染物質を排出することを指す。“機械換気”と“自然換気”の2種類と、2種類を組み合わせたケースがある。空気の動き方もさまざまで、混合換気と言って、外の空気といったん混ざり合ってから排出されることもあれば、クリーン環境内でピストンのように、外気を押し出していく置換換気システムもある。
コロナ禍での換気対策は、これまでにも公的・専門機関からさまざまな情報が発信されている。商業施設などでは、「換気の悪い密閉空間ではない目安」として、換気量1人あたり毎時30立方メートルと基準が設けられている。多くの施設管理者は、この数値を気にしている。
既存施設の換気を改善するには、まずはこれまでにも重要性を繰り返して述べてきた現状の確認。方式、換気量、制御方法、運用実態を知り、換気量を臨時に増大する余地があるかどうかを判断する必要がある。
改善すべきことが決定すれば、下図の(a)〜(f)のような対策を順次進めていくことになる。(a)の余力活用は、CO2の自動制御システムや外気導入制限をかけている場合は、それを一時的に変更することで、大規模な工事をせずとも簡単に状況を改善できるというものだ。(a)または(b)が難しい状況では、窓を開けるだけの(c)でも十分な効果を得られるが、夏季や冬季には環境がより悪化してしまう懸念がある。
しかし、(a)〜(c)が実施不可であれば、(d)〜(f)の設備投資を検討しなければならない。(d)では、フィルター追加が必要になるが、換気を改善するフィルターは広く認知された一般的な基準のフィルターとは、規格が異なっていることもあるので注意しなければならない。また、当然ながら、施設設備がフィルター設置に対応しているかどうかもチェックが必要だろう。
(e)空気清浄機の採用も効果は大きいが、スペックを事前に確認すべきだろう。(f)の換気増強改修は大規模な工事を伴い、熱源の増強も欠かせない。
「とはいえ、こうした対策も講じれば、それだけで安心というわけではない。温湿度環境が感染リスクにどれくらいの影響を与えるのか、まだ科学的に分かっていない部分も多く、公的機関が発信する情報や研究成果などを調べ、自社の対策が正しいのか、自身で吟味せねばならない」(杉内氏)。
また、換気のシミュレーションも有効策としてあり、数値流体シミュレーション(CFD)などに代表されるように、空調に関する解析技術は多数あり、温度や冷温感指標などの分布によって空調システムの効率性を調べるものだ。空気齢(空気の新鮮度)や流速の分布をしらべれば、感染症対策の検討にも役立つ。
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