【最終回】発注者のニーズを知り、要求条件をまとめる(下)−ブリーフィング/プログラミングの重要性−:いまさら聞けない建築関係者のためのFM入門(12)(1/5 ページ)
本連載は、「建築関係者のためのFM入門」と題し、日本ファシリティマネジメント協会 専務理事 成田一郎氏が、ファシリティマネジメント(FM)に関して多角的な視点から、建築関係者に向けてFMの現在地と未来について明らかにしていく。今回は、要求条件を伝える方法として、プログラミング/ブリーフィングの在り方について、モデルルームのコンセプトに詩を用いた事例を交えながら解説する。
FMはライフサイクルを通して考える
ファシリティマネジメント(FM)を施設管理と訳し、運営維持を中心に考える方もいる。FM業務を実践していて一番時間を費やすのは日常の運営維持だが、それのみに注力することをFMとは呼ばない。FMとは、目的に最適化するように、ファシリティのありようをライフサイクルを通してマネジメントすることである。戦略・計画(Plan)→プロジェクト管理/運営維持(Do)→評価(Check)→改善(Act)というPDCAを回し、スパイラルアップしていくマネジメントシステムである。
マネジメントサイクルの中には、建築の新築プロジェクトもあるが、その他、改修のプロジェクト、オフィス移転のプロジェクト、ワークプレース改善のプロジェクトなどなど、さまざまなプロジェクトが内包される。建築関係者は、その中の新築プロジェクトなどに、サプライヤーとして参加することになる。建築関係者は、建築プロジェクトを「企画→設計→施工→竣工」というプロセスで考える。
しかし、発注者側のファシリティマネジャーは、例えば、本社オフィス新築プロジェクトでも、建築だけでなく、ワークプレースづくりも含めて考える。そのプロセスは、社内の中長期実行計画やワークプレース戦略、さらには社会情勢の変化を踏まえて、基本方針を決めた後は、「基本方針→要求条件整理・作成(ブリーフィング)→基本方針・設計→実施設計→実施管理・検収→移転計画・移転→プロジェクト完了時評価」というプロセスを辿(たど)る。
建築関係者側と発注者側(ファシリティマネジャー)の役割や視点の違いを理解いただけたであろうか。今回は、このような建築プロジェクトにもワークプレースづくりにも役立つ設計前段階の要求条件の作り方について解説していく。
要求条件を伝える方法―プログラミング/ブリーフィング―
前回は、発注者や利用者の話を「聞くこと」の大切さ、そこでニーズや課題を明確にすることの重要性を述べた。今回は、それらの話を「発注者の要求条件書」として生かす方法の解説となる。難しい内容や細かな面積や数値を記述するのではなく、詩や物語といった分かりやすい手段で発注者の思いを伝える方法である。
建物やワークプレースなどを設計する前に、発注者の意図や目的・ニーズなどを、設計者や施工者に伝えるために明文化した文書を「ブリーフ」あるいは「プログラム」という。このブリーフ/プログラムを作成するプロセスを「ブリーフィング」または「プログラミング」と呼ぶ。一般的に、「ブリーフィング」は欧州・ISOで、「プログラミング」は米国で使われている。日本では「要求条件整理」「設計与条件設定」などと訳されている。
建物やワークプレースなどの設計を発注する際、要求条件を明確にして発注するのは至極当然に思うが、日本ではそれが十分になされているとはいえない。この役目は、まさに発注者の役目であり、インハウスのファシリティマネジャーの役目である。
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