建設業界がデジタル技術で新型コロナを克服するための道筋、IDC Japanの独自レポート調査から:vsCOVID-19(5/5 ページ)
新型コロナウイルス感染症の拡大により、建設業界でも事業環境が悪化し、いまだに脱出の糸口を見つけ出そうと模索する企業は少なくない。その一方、コロナ禍の副産物として、これまでなかなか浸透しなかったBIMや現場管理ツールなどといった業務効率化をもたらすDXが急速に普及しつつある。こうした国内の建築/建設業を取り巻く環境が様変わりするなかで、オートデスクと市場調査会社のIDC Japanは、コロナ禍で苦境に立たされた建設業が業績回復までに至る道筋を示したウェビナーを開催。IDC Japanの独自調査から浮かび上がってきたCOVID-19を克服するためのキーワードとオートデスクが提供するクラウドソリューションの有効性を説き、いかにしてネクストノーマルに備えるべきかを提言した。
クラウドで共有し、プロセスを記録して企業の技術力強化へ
個別最適のデバイスやアプリケーションを連携させるには、インターネットの先に正となるデータを置き、それに対して関係者が読み書きをし合えるプラットフォーム=クラウドが有効だ。クラウドを採用することで、いつでも、どこからでも、正のデータにアクセスすることができるようになる。さらにクラウドの導入価値を高めるのが、プロセスの管理、プロセスの記録だと、オートデスクは訴求する。
例えば、施工現場を例にとると、「壁紙に傷があった」などといった日々発生するいろいろな指摘事項を、カメラで現場を撮って関係者と共有する。1人の管理者で十分管理できる件数であれば問題は起きないが、一定件数を超えると、管理者はその進捗、つまりプロセスの管理をするのが難しくなってくる。加えて、オフィスにいながら複数の施工現場の進捗を管理するリモートワークでは、プロセスがきちんと管理をされていないと、オフィスから複数現場の進捗を正確に把握することは困難を極める。だが、クラウドに格納した各情報のプロセスを管理するモジュールがあれば、こうした懸念は解消される。
プロセスの管理や記録では、各企業の個人が蓄積している“暗黙知”を企業の技術力へと昇華させるデータベースになり得る可能性が高い。例えば、新規に病院の建築を受注した場合、これまでの受注実績で蓄積してきたナレッジやノウハウ、ワークフロー上で遭遇した問題などをAIで解析するためには、これまでのマニュアルや図面はもちろん、各段階で日々発生している指摘事項、関係者や施主とのコミュニケーションなどのプロセスを記録したデータが有効となる。
仮に、若手で経験の少ない管理者がマネジメントしなくてはならなくなったとき、従来のワークフローでは諸問題が発生する可能性が少なくない。しかし、クラウド上に保管してあるプロセスの記録から洗い出すことができれば、ベテランの暗黙知に置き換わる新たな技術力となり、若手の実践的な育成にもつながるはずだ。
建設業界のデジタルソリューションをワンパッケージでご提供
オートデスクでは、建設業界の課題解決を可能にするための製品群を順次アップデートし、その集大成として「Autodesk Construction Cloud」をリリース。Autodesk Construction Cloudでは、一番下層の「データ共有・管理」から、今回解説した「施工管理」、施工のプロセス管理をするモジュール、そして、「インテグレーション&開発」に至るまで、建設業界のデジタルソリューションをワンパッケージで提供する環境を提供している。近い将来には、AIも実装される予定だという。オートデスクの今後のビジョンとメッセージを表明し、大西氏のプレゼンテーションは幕を下ろした。
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